「…教室行かなきゃ。」
バッと立ち上がって来た方向に向き直る。
下駄箱まで走ってはきたが、教室にカバンを置きっぱなしだ。
取りに行かなきゃいけない。
「はぁ…。」
ため息を一つこぼして階段を上がる。
明日から先生に顔向けできない。
数学、1時間目にあるのに…。
まぁでも、明日は金曜日。
明日1日さえ乗り切れば、土日は会うことは無い。
今まででこんなにも成宮先生に会いたくないって思ったのは初めて。
土日なんてなくていいのに、と思っていたのが嘘のように、今は会いたくない。
会ってしまったら…。
そう思うと自然と唇をかみしめていた。
先生、なんて思ったかな。
先生は私のことなんて好きじゃない。
先生はみんなに向ける笑顔と同じ笑顔を私に見せる。
私は先生のトクベツじゃない。
だから、この気持ちは一生伝えないつもりでいたのに…。
いや、伝えたくて伝えたわけじゃないんだけどね。
まさかあそこで起きるとは思わなかった。
まだ顔の熱が引けてない。
あぁ、もう…。
先生と話したいのに、それが出来なくなっちゃったよ…。
じわ。
目頭が熱くなり、涙が頬を伝った。
ゴシゴシ、と制服の袖で拭うけれど涙は次々と溢れてくるばかり。
ガラガラ。
教室のドアを開ける。
中に誰かいて泣き顔見られたらやだなと思ったけれど、都合のいいことに、誰もいなかった。
「ふっ…ふぇっ…」
感情を抑えきれなくなり、泣き声が漏れてしまう。
「うぅーっ…」
先生…っ。
好きなのに。
もう近づけない。
もう話せない。
言うつもりじゃなかった。
もっとちゃんと、卒業してから、一人の女性として見てもらえるようになってから、“先生と生徒”っていう関係を切ってから、伝えるつもりだったのに。
どっちにしろ、今の関係じゃ付き合うのは無理だし、第一、OKしてくれるわけがない。
私がもし本気で“付き合ってください”なんて言ったところで、先生の答えはNOだ。
無かったことにしてほしくないけど、忘れてほしい。
矛盾してるけど、そう思う。
「はぁっ…。」
涙まじりにため息をついて、カバンを手に取る。
そして誰もいない教室を去った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。