「あ、おーい、あなたっ!」
名前を呼ばれてハッとし、声のする校舎の方に体を向けた。
私が渡り廊下で立ち尽くしているところをキョロキョロと周りを見ながら茉奈が近づいてくる。
「もー、いちごオレ1個買うのにどれだけ時間かかってんの〜っ?
…って、あなた?」
笑いながら来た茉奈は私を見て少し驚いたようだった。
「どした?
顔、真っ青だよ?」
「え?」
茉奈が心配そうに私の顔をのぞき込む。
「…げっ。」
そして茉奈は私の背後を見てそう声を漏らして顔をしかめた。
「ちょ、行こ。」
茉奈が私の手を引いて教室まで小走りした。
その間、チラッと後ろを見ると成宮先生がポケットに手を突っ込んで歩いていくのが見えた。
そっか…茉奈は成宮先生を見て私を…。
「とりあえず座ろ?」
そう言われ、トサッと椅子に腰を下ろす。
茉奈は隣の机を私の机にくっつけてから座り、んで?、と言った。
「あんなに顔色悪かったのは、先生を見かけちゃったから?」
「いや…そうじゃなくてね…」
やばい、泣きそう。
無意識に声が震えてしまう。
「女の子が…先生にっ…告白してるの見て…」
「ええーっ!!??」
私の言葉に茉奈が驚く。
その声の大きさのあまり、教室内のお弁当を食べていた生徒全員が茉奈に注目した。
「あ、すみませーん…」
茉奈は慌ててペコっと頭を下げた。
「えっ…あなたの他にも成宮先生のこと好きな人が…」
え、そこ…?
「それに、告白って…勇気あるね〜…」
「うん…
それで、先生…
生徒は恋愛対象外って…。」
「そっかぁ…。」
茉奈はガバッと仰け反る。
「分かってたこと…なんだけど…直接口にされるとさ…やっぱり…」
辛いよ。
恋愛感情を抱く対象にすらなってないなんて。
「…もーさ、当たって砕けて、新しい恋に進めば?」
ガシッと私の肩をつかむ。
「へ?」
沈んでる人に対してそれ、軽く言っちゃう?
「いやー、ね?
辛いのは分かるよ?
こんなことあなたに言うのも、無神経だとは思うよ?
だけどさ…」
急に切なそうな顔をして言う。
「いつまでもクヨクヨしてるわけにいかないでしょ?
もう苦しそうなあなた見てるのは…こっちも辛いよ…。」
「茉奈…。」
…もう私は、先生を諦めなきゃいけないのかな?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。