「先生、私…」
グッと顔を上げて、先生を見つめる。
冷静に…冷静に…
自分にそう言い聞かせた。
「…成宮先生のことが、好きです。」
「っ…」
言った。
言っちゃった。
…多分、私の声は震えていた。
でも、ちゃんとまっすぐ、先生を見て言えた。
驚きと切なさが混じったような顔の先生。
…分かってる。
その顔の心理。
先生は私の好意を知ってたから。
図書館で、私の密かな告白を耳にしちゃってたから。
まさかこうやって告白するなんて思ってなかったんだと思う。
それに…どうせ振らなきゃいけないって。
無理なの、分かってる。
先生が私の事を恋愛対象として見てないのも知ってる。
振る側も辛いよね。
分かってる。
だから…
だからね…?
「…でも、返事は今、しないで。」
私の言葉に、また先生は驚いた顔をした。
「…卒業式の日、もう1度、告白しに来る。
だから、返事は…その時のお願いします。」
私はそれだけ言ってその場を走り去った。
「はぁっ…はぁっ…」
言い逃げ、みたいになっちゃったかな…
でも…私は弱いから…
振られるの、分かってるけど…
怖いから…
先生から、その言葉を聞くのが。
“ごめん”って言われちゃうのが。
怖いから…。
ごめんね、ずるくて。
でも、許してください。
まだ私、先生との関係を、疎遠にしたくないの。
だから、また…
卒業式の日に言うから。
まだ1年以上あるけど、そのときまで、私はきっと先生のことを好きだと思うから。
そのときに、ちゃんと振ってください。
立ち止まると、そこは渡り廊下。
生徒達の準備をしながら笑い合う声があちこちから聞こえ、木の葉っぱが風に揺られてザワザワと音を立てている。
鼻がツンとして、こらえていたはずの涙がこぼれ落ちた。
空には夏の太陽が光り輝いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。