「よ、あなた。」
後ろから呼ばれて振り返る。
「あ、先生、おはよーっ!」
やばい、私服かっこいい!!
「おい、もう先生じゃないだろ?」
「そーだけど、そっちの方が呼びやすいしっ!」
「ったく…」
先生は呆れたように頭をかいた。
だって、3年間“先生”って呼んできたんだから、そりゃあ呼びなれちゃうでしょ〜。
そして…
ふふっ。
今日は先生との初デート!
めでたく卒業式の日にカレカノになった私たち。
卒業式のあと泣きながら教室に戻ったら、なっちゃんは振られたと思ったみたいで…
まぁ、そりゃそーだよね…
私が付き合うことになったって伝えたらなっちゃんまで泣いて喜んでくれた。
でもまだ、みんなには公表してない。
知ってるのは、なっちゃんと茉奈と麻美だけ。
あと、一応お母さん。
元自分の教師なんてやめとけって言われるかと思ったんだけど、先生なら安心ねって…
なんか拍子抜け。
「車、あっちに停めてあるから、行くぞ。」
「うんっ!」
午前10時、待ち合わせは公園。
これから先生の車に乗ってドライブ。
車って、大人のデートって感じで素敵!!
私は先生の後ろを歩いて駐車場に向かった。
「お邪魔しまーすっ」
先生の車に乗るのは2回目。
「ふっ…どーぞ。」
…なんで今笑う??
そうやって聞きたかったけど、先生は鼻歌を歌いながら車にエンジンをかけていた。
ま、先生が楽しそうだから別にいーや。
「ねぇ、今日、どこ行くの?」
今日は3月17日。
ホワイトデーは平日で、先生は学校があったから会えなかった。
1、2年生はまだ学校あるからね…
その代わりに今日は遊びに連れていってくれるんだって!
「んー…ノープラン。」
「えっ!?」
誘ったの、そっちなのに!?
「逆に、どこ行きたい?」
「ぅえ!?」
いきなり過ぎ…!
デート、と言えば…
「…遊園地?
でも、混むよね〜…」
なんと言っても今日は日曜日。
全国の高3は春休み中なわけだし…。
「まぁ、だろーな。」
ですよね…。
「じゃ、じゃあ、水族館…とか?」
「お、いいじゃん、そこにしよ。」
私の提案に先生は乗り気で答える。
やった!
今日は水族館デートです!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!