地面に倒れ込みそうになったが、なんとか手をついて免れる。
何なんだと顔を上げた私の目に最初に映ったのは――――“赤”だった。
何もかも、わからなかった。
私がさっきまでいた場所に宏一が倒れていて、宏一の脇腹は血まみれで。そこからどんどん血が溢れ出していて、歩道に赤い円を広げていた。
エンジン音が離れていくのを遠く聞きながら、私は宏一の元へ力なく歩み寄り、そばにへたり込んだ。
宏一が微笑む。いつもと何ら変わらないように見えるが、その体からは今も血が失われている。致命傷だ。助からない。
けれど私は認めたくなくて、宏一が死ぬなんて思いたくなくて必死に叫んだ。
激しく咳き込む宏一。血混じりの唾液が飛び、私の制服に染みつく。宏一に着々と『死』が近付いているような気がして、恐怖が更に大きくなった。
私はハッとして左手を見た。手の甲の上に、宏一の右手が重ねられていた。
宏一の瞳から少しずつ光が失われていく。瞼も震えていて、かろうじて開けることができているような状態だった。
……なんで……私を庇って宏一が死ぬなんて、そんなのおかしい……!!
神様、宏一を助けて――……!!
瞼が、完全に閉じられた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。