第9話

*9*
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2018/01/08 10:34
地面に倒れ込みそうになったが、なんとか手をついて免れる。

何なんだと顔を上げた私の目に最初に映ったのは――――“赤”だった。
あなた

……ぇ

何もかも、わからなかった。

私がさっきまでいた場所に宏一が倒れていて、宏一の脇腹は血まみれで。そこからどんどん血が溢れ出していて、歩道に赤い円を広げていた。

エンジン音が離れていくのを遠く聞きながら、私は宏一の元へ力なく歩み寄り、そばにへたり込んだ。
あなた

宏一……?なん、で……どうして

宏一
間に合ってよかった
宏一が微笑む。いつもと何ら変わらないように見えるが、その体からは今も血が失われている。致命傷だ。助からない。

けれど私は認めたくなくて、宏一が死ぬなんて思いたくなくて必死に叫んだ。
あなた

やだ!!やだよ、ダメ、死なないで宏一!!

宏一
いいんだよ……というか、俺が死なないと、ダメなんだ。お前が……ゲホッ
激しく咳き込む宏一。血混じりの唾液が飛び、私の制服に染みつく。宏一に着々と『死』が近付いているような気がして、恐怖が更に大きくなった。
あなた

ダメ、ダメ!!待って、まだ一緒に……!明日からまた話そうよ宏一!!

宏一
……あなた
私はハッとして左手を見た。手の甲の上に、宏一の右手が重ねられていた。
宏一
俺の携帯のメール……見て。見たら、誰にも見せずにすぐ消してくれ。頼んだぞ
宏一の瞳から少しずつ光が失われていく。瞼も震えていて、かろうじて開けることができているような状態だった。

……なんで……私を庇って宏一が死ぬなんて、そんなのおかしい……!!

神様、宏一を助けて――……!!
宏一
……じゃあ、な。あなた……。母さんと、仲良……く、な…………

瞼が、完全に閉じられた。



あなた

――ああああああああああああっ!!

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