ー5年後ー
私は、お父さんのお墓参りに行った。
大学に行って、私は、フランス語を学び始めた。かつて、お父さんが生まれた場所の言葉を、知りたくなった。ようやく、文法なども身についてきたところだ。
「あの人は、お父さんだったんだねー。」
ムニーというのは、フランス語で「導く」という意味だった。そして、扉に彫ってあった時計の周りには、フランス語で、「幸せを導く」と書いてあったのだ。
私は、また目を閉じて、手を合わせた。
お墓の裏には、お父さんの名前が書いてあった。幼い頃、ずっとお父さんと呼んでいた、あの、お父さんの名前がー
『愁仁』
今なら、あの言葉の意味が分かる気がする。「人は時間によって生かされている」
人は、時にはどんな残酷な運命も受けなくてはいけない、でも、その先にある、幸せな運命も受けなくてはいけないんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!