家に帰ると、いつもと変わらない彼の声が部屋の奥から聞こえる。
ダイニングから顔を出した恋人は、私の顔を見てもう一度 おかえりと言った。
コートについた雪を手で払いながら、ブーツを脱いで暖かい部屋へ向かう。
“ありがとう”よりも“ごめんね”を言うことの方が増えてきた 今日この頃。
優しいだけじゃ物足りない、なんて。
きっと私は欲深い女なのだろう。
高校時代から付き合っているせいか、彼はもう私の人生の一部になり始めている。
そんな中、私には一つだけ 大きな悩みがあった。
それは “今まで一度も キスより先に 進んだことがない” ということ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!