ふわりとシャンプーが香る長い髪。
優しさを湛えた目元は 五年前も変わらない。
それから、怒ると無口になるところも。
ベッドの中で叩かれた左頬は未だジンジンと痛んでいる。
悪ふざけが過ぎたのだろう。
涙を浮かべた彼女を目にした時は、さすがに焦りを覚えた。
しかし、時すでに遅し。
シーツに縫い付けた両手を解放するや否や、彼女の右手が飛んできたのだ。
キッチンに立った彼女は 忙しなく動き回り、俺のことはまるで空気かのように扱っている。
でも カウンターに置かれた2枚のプレートとコーヒーカップが、俺を甘やかす。
そう言って背後から抱きしめれば、耳を赤くして聞こえないフリをするのだから 堪らない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。