しばらく歩いて行くと、木道の傍に咲く スズランエリカに目を奪われた。
純白の小さな花弁は、可愛らしさの中に 冬の寒さに耐える強さを持っている。
数メートル先まで続くスズランエリカは、まるでその一帯だけ 雪が積もっているかのように錯覚させる。
その光景に 私は思わず白い息を零した。
エリカを見て思い出すのは 両親のことだ。
暑さに弱いスズランエリカを見られるのは冬の間だけだったので、私は毎年 この季節を楽しみにしていた。
もちろん、好きになったのは可愛らしい見た目だけではない。
二月の母の誕生日に、父が必ずこの花を送る理由も 何となく分かる。
“幸せな愛”
彼と過ごす今この瞬間こそが その言葉の意味なのかもしれない。
手のひらに優しい温もりを感じながら、そんなふうに思った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。