この時感じたのは、元の世界に戻ってこれたような感覚だった。
これ以前の記憶は全くと言っていいほど無く、気がつくと 彼女の体を抱いていた。
照れているのか、俯いたままの彼女。
どういう経緯でこんなことになったのかは分からないが、今なら恋人の本音を聞けるような気がした。
彼女に伝わってしまいそうなほど、心臓は高鳴る。
強く抱けば壊れてしまいそうなこの体を抱きしめたのは、いつ以来だろうか。
恐る恐る顔を上げた彼女の頬は 紅に染まっており、思わず目を背けてしまいそうになる。
…俺を“その気”にさせるには 十分過ぎたからだ。
あなたはどこか安堵したような表情を浮かべ、俺の首に腕を回した。
今にも泣き出しそうな声。
微かに震えた体。
彼女の全てが 愛おしくて堪らなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!