第3話

ひとりぼっちの私
203
2018/01/01 01:04
その日は取りあえず学校を早退した。

いつもは部活後、太陽と待ち合わせて2人で電車に乗って帰る。
会長ファンの女子たちが毎回、私を容赦なくにらむ。
でもそのときは太陽も気遣って、“副会長”っと私を呼ぶ。

これで会長ファンの女子は私と太陽をそういう関係じゃないと判断する。

──それも心が痛かった。


今日は違う。太陽もその女子もいない。
この時間だから、乗車人も少ない。

「(どうして、あんな追い詰めること言っちゃったんだろう。…どうして今まで助けてあげられる言葉をかけようとしなかったんだろう。…どうしてあの時、星の話なんてしたんだろう。)」

過去を振り返り、悔やむうちに、心臓を今にも取り出してこの苦しい気持ちも楽しかった気持ちも想いもすべて消したいと。
強く思った。

「(嫌われたよね。私。)」

重い足取りで家に着く。
太陽の家は斜向かい。
視界に入っただけで私は視線を真下に向けた。

「…ただいま。」

「お帰りなさい!大丈夫なの!?」

母は学校から連絡を受け心配して待っていてくれていた。

「…うん。でも、もう少し寝ていたいかな。」

母はそうよね、っとリビングへ戻っていった。
私は2階の自分の部屋に入った。

机の前の壁にある太陽との写真。
でも、それらは全部小さいときの写真。
それ以降の写真はあったとしても、無表情ばかり。

壁にあった写真を全て裏返す。 

─見たくない。

私は制服から部屋着に着替え、スマホを取りベッドに背中を預ける。

ラインを開くと友達でクラスメートの誇乃から通知が五件来ていた。

私は急いで返事をする。
こののん👾
こののん👾
おーい!
こののん👾
こののん👾
あずみーん!
こののん👾
こののん👾
大丈夫なの!?
こののん👾
こののん👾
朝会で倒れてたじゃん!?
こののん👾
こののん👾
おーい!!!😡
Azumi*
Azumi*
大丈夫だよ!👋💓
今日は早退したけど😅
誇乃からはすぐに返信が来た。
どう考えても今は授業中だ。
こののん👾
こののん👾
おう!
お大事になぁ💪✨
私はその返信にスタンプで返した。

「(こんなに心配してくれて…。)」

スマホの前で微笑んでいる自分が居た。
太陽の前では見せない自分。

「(酷いよね。私。)」


そのとき母が居る下の階から電話相手の父の声が聞こえた。
私は部屋のドアをそっと開け、その話を盗み聞きした。

「…しょうがないじゃない!体調崩したのよ!?そのくらい…」

滅多に怒らない母の声が聞こえる。
父の家に響くほどの電話越しの声。

「そのくらいだと!?あいつに勉強させる意外に何がある!?なんの取り柄もない!
生徒会に入ったはいいが、立場は“副会長”
何が“しょうがない”だ!
さっさと学校に返してこい!今すぐだ!」

「…はい。」

母は電話を切って2階に上がってくる。
私は急いで部屋に入りベッドに潜り込んだ。

コンコンっと部屋のドアを叩く音。

「お母さんよ。入ってもいいかしら?」

私は起き上がり、いいよ。と返事をした。

「ごめんね。お父さんが学校へ戻れって。」

「…戻ればいいのね。」

「ううん。戻らなくていいから、学校へは行ったことにしなさい。話は合わせるわ。」

母は私の体調を気遣い、話を合わせることを選んだ。

「お母さん、ありがとう。」

「…ごめんね。お母さんがこんなに頼りなくて。」

私は首を横に振って、もう寝るね。と伝えた。
母はそうね。じゃあ、リビングにいるからね。と部屋を後にした。


誰も居ない部屋に思い出すのはさっきの太陽の顔だ。

「(星、見に行こっかな…)」

そう思ったのはいいのだが、見に行ったところで…と、先の言葉が見つからなかった。


私はまた、ラインを開き太陽のコチャをタップした。
Azumi*
Azumi*
さっきはごめんね。
太陽のこと考えないで適当なこと言って。
既読はついたのだが、返信はこなかった。

「(やっぱり、怒ってるよね…)」

深いため息をついた。
泣きたい…。
綺麗な景色を見に行きたい。

寒いなぁ…。
今日はまだ夏休み明けたばかりだというのに。

私は体を縮こめ寒さをなんとかしのごうとした。
でもそのまま眠りについてしまった。

最近は父の勉強という言葉が飛び交う家で寝る時間さえ充分に確保できていなかった。

でも、兄はもっと辛い思いをして勉強している。
父の期待の大きさがプレッシャーとなって、ストレスに追い詰められている。

最近は大学の友だちと毎晩飲み歩くようになった。
父は滅多に帰ってこないのだが、この間家に帰ると兄が居ないことを母に激怒した。

あれ以来、兄は母に迷惑をかけられないと家を出て行った。


この間、その兄の家にお邪魔した。


兄は頭もよく、外見も内面もいい。
喧嘩とかをした覚えのないほどいい人だ。

「久しぶりだね。亜澄。」

兄は相変わらずいいお兄ちゃんだった。

「久しぶり。お兄ちゃん。」



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