普段も登下校は一緒だったが、今日は特別。
何故なら、前から行きたかったケーキ屋さんに一緒に行く約束をしていたから。
だから、朝からそわそわしていた。
ケーキが食べられるのも嬉しいが、何より、冬弥を独り占めできる。
それが嬉しかった。
「冬弥って、甘いもの好きだっけ?」
「別に、嫌いでも、好きでもない。」
「今から行くお店ね、東京にはあるんだけど、地方にはここにしかお店ないんだよ!すっごく美味しいって夏奈が言ってた!」
私は、はしゃいでいた。
冬弥と話せている嬉しさと、春の日差しの心地良さとで、浮かれていた。
私が行けなかった。私がーー。
「それでね、」
冬弥の前を後ろ向きに歩いていた。
冬弥に危ないと言われながらも、大丈夫だよ、と言いながら。
信号が赤なのも気づかず、車の音にも気付かず。
「晴っ!!」
不意に体が宙に浮いた。
誰かに、歩道へ引き寄せられた。
その瞬間、私の視界は真っ赤に染まった。
何も、分からなかった。
ただ、分かったことは、目の前で倒れているのは、私の大切な人ーー冬弥だってことだけだ。
誰かの悲鳴が私の頭に響いた。
誰かの泣き声が、あたりに響いた。
冬弥の顔が、優しい声が、私の心に響いた。
余りにも煩かったので、耳を塞いだが、収まらなかった。
なぜなら、私の声だったから。
「冬弥ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。