前の話
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あの男、誰よ。
遠くから派手なデジタル音が鳴り響く。
真っ暗な視界が段々開け、枕元の時計に視線を移す。6時、いや違う9時だ。あと30分で遅刻するため急いで支度しなければ。幸いにも家から会社までの道のりは二駅で済むため多分遅刻は免れるだろう。だけど出勤中もずっとあの男が脳裏に浮かぶ。気が晴れぬままオフィスに入り自分の席に座るや否や、隣の席の理恵が話しかけてきた。
『どしたの、ぼーとしちゃって』
『あぁ、理恵か、おはよっ』
『あぁ、じゃないわ、で?今日は何があったの』
流石だ。この子はどこまでも鋭い。理恵とは入社当初から何かと気が合う中で、3年経った尚もよく交流を交わす仲が良いといえばそうなのかもしれない。
『いや、ここ最近同じ夢を何回か見ることがあってさ、毎回必ず出てくる男の人がいるの』
『へぇ〜、それで?』
『それでって、なんかの暗示かなって』
『どんな夢なの』
『なんか私がその人のこと好きな設定でさ、
恋してるらしいんだけど告白出来ずにいつも遠くから見てる的な』
『恋愛に興味無いあんたが、ねぇ』
『何よ、私だって恋したことくらいあるわ』
『はいはいどーせ遠い昔の青年でしょ』
『そうよ悪い?てか理恵は恋愛のほうどうなのよ』
『私は、ん〜、、あ、あのイケメンがいいかな』
『はいはい、面食いねおつかれ〜』
『なによ〜あの涼太君って人目の保養だわ』
さり気なく話題を相手に振ったが、理恵の言うとおり私はある日を境に恋愛に興味がなくなったというか、恋愛の仕方が分からなくなっていた。それだけあの時の記憶が鮮明に残っている。忘れられない人。繋がるはずのない携帯電話の番号を今もずっと登録したままである。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。