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第1話

なくしもの
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2017/12/28 04:40
あなた

...あった!

遠くで、みんみんぜみが鳴いた。
親友
あったー?
もー、いい加減にしてよね。
あなた

ごめんごめん

親友
いくつ物を失くしたらその癖直るのさ!
親友は汗を垂らしながら、私をじとりと見ている。
親友
...あれ?あなた、アンタのノートってそンなに汚れてたっけ?
あなた

うーん、神社で見つかったって事は、若しかしたら誰かが届けてくれたのかも?

親友
ふぅん?
あなた

本当は森にあったりしてさ

親友
あーね、確かに
私はよく物を失くす。

親友は、そのたびに文句を言いつつも私のなくしものを一緒に探してくれる。

今回、私は歴史のノートをなくしてしまったのだ。
親友
ま、見つかって良かったじゃない?
あなた

そうだね、ありがと

親友
次は無いからねー!
次は無い、と、彼女はいつも言う。

だから、私は小さく笑って、「うん」と答えた。



夏だ。



蝉が五月蝿くて、

汗が纏わりついて、

日差しが肌を刺して。
あなた

お母さんがスイカ冷やしてるってさー

親友
えー?それ先に言ってよー!
あなた

えへへ、ごめん。
ノートですっかり忘れてた

ふと、鼻を擽る小さな気配に、目線をあげた。

痛々しい記憶を残す、原爆ドームの姿が目に入る。
あなた

...夏だね

親友
んー?それが?
あなた

ううん、何でもない

見つかったノートをきゅ、と抱きしめて。

私はその傷跡から目を逸らした。


過去の話だ。今の私には、関係無い。


そう、思っていたんだ。

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