翌日、私はまた神社へと来ていた。
ノートの事が気がかりで仕方が無かったのだ。
矢張り其れは、そこにあった。でも。
汚い。昨日よりもずっと汚れていた。
黒ずんだ手で触ったみたいな、煤みたいな汚れが付いていて、私は其れを払う。
新しいノートを、買おうか。
そう悩みながらページを開いた私の心臓が、飛び跳ねる。
『戦争はまだ終わっていない。
お前は予言でもしているのか。
いや、ただ嘘を言って俺を困らせたいんだ。
俺の名は、拓。お前こそ誰だ。』
返事が、来ていた。
その失礼な物言いにも腹が立ったが、何よりこの“戦争はまだ終わっていない”という文章が気になった。
戦争はもう、とうに終わっている。
確かに今、世界は危ない状態だけど、まだ戦争には至っていない。
あなたは、一体何なの?
奇妙な違和感を覚えて、私はそのページの写真を撮る。
全身の毛が、逆立った。
証拠を残そうと、そう思っただけ。なのに。
これは一体どういうことなの?
私の、抗議の文章はしっかりくっきりと写真に残っている。
なのに。
拓と名乗る人物が書いた文章だけが、写真に残らない。
思わず、ノートを投げ捨てて私はその場を逃げた。
ただ、ただ怖かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!