プリ小説

第2話

幼 な じ み
────ジリリリリリリ…

んん〜…うるさいなぁ…。
枕元でうるさく鳴る目覚まし時計。
まだ寝てたいのに…せめて、あと5分…。

────ピタッ

あ、止まった。
ん?なんで止まったんだろ…?

「愛菜。起きろ」
「ん〜…」
目を擦りながらゆっくり開けると、目の前には大好きなあの顔が広がっていた。
「…っ、うわっ!」
思わずベッドから転げ落ちる。
「おせぇよ」
声の主は橋戸和也。わたしの幼なじみだ。
「違う!あんたが早すぎなの!だいたい、女子高校生の部屋に勝手に入る男子高校生ってどうなんですか!」
「はぁ?今更」
早く支度しろ、と吐き捨てるように言うと、和也はわたしの部屋から出て行った。

あれが、わたしの片想いの相手。
いつからだろう…小学校5年生、くらいからだった気がする。
すっかりこじらせてしまったこの思いは、高校生になった今でもあいつに伝えることが出来ず、胸の中に留まったままだ。
はぁ、とため息をついて制服に着替え、1階のキッチンに下りると、お母さんと和也の姿が見えた。
「あ、やっと来た」
お母さんが呆れ顔で言う。
和也はお母さんからもらったのか、食パンを無言で頬張っている。
…ったく。家でも食べてきたんでしょ。
「おはよう。わたしも食パン食べたい」
「はいはい」
笑顔で言うお母さんを横目に、和也の向かい側に座る。
「ねぼすけ」
「うっさい」
べっと舌を出すわたしに舌打ちをする和也。
わたしもそんな和也を無視してお母さんから食パンを受け取り、和也のように頬張った。

「「いってきまーす」」
ふたりで声を揃え、家から出る。
わたしたちが通う高校までは、毎朝ふたりで登校している。
小学校のときから変わらない、わたしたちの習慣。
「あ!橋戸くんおはよぉ〜っ」
同じ学年の女子が2、3人、和也に声をかける。
イヤフォンをした和也は、その声が聞こえなかったかのようにガン無視。
女子たちはそんな和也を見てかっこいい〜と言いながら去っていった。
和也の冷たい態度も、クールキャラとして女子に人気らしい。
「返してあげればいいのに」
「めんどくせぇ」
…ほらやっぱり。聞こえてた。
「やな奴」
「うるせぇ」
眉間にシワを寄せるわたしの頭をぐしゃっとして、和也は舌をべっと出した。

────ドキッ…

ほらね、こういうの、ずるいよ。
和也がそんなことばっかりするから、この想いをいつまでも忘れられないでいるんだよ…。

和也は女嫌いだ。
けど、そんな和也が唯一話すのがわたし。
つまりそれは、和也に女として見られてないという証拠であって…。
そんなことは分かってる。
分かってるけど、分かった上で、わたしは和也のことが好きなんだ…。


「和也、コミ英の宿題ってやった?」
「やったけど」
「見せて!」
顔の前で両手を合わせるわたしに、コミ英のノートを思い切り投げつける。
「痛っ…!ひっどーい」
「見せてやんねぇぞ」
うっ…と言葉が詰まる。
「ごめんなさい…見せてください、和也様」
「はいよろしい」
やっぱり…いつでも主導権は和也ばっかだ。
わたしはいつも、和也に振り回されてばっかり…。
「愛菜おはよっ」
ノートを移すわたしの肩をぽんと誰かが叩く。
「あ、香奈美。おはよー」
「また橋戸くんのノート移してる」
やれやれ、と肩をすくめるこの子は、高校に入ってから仲良くなった野尻香奈美。
わたしと香奈美と和也は同じクラスだ。
「橋戸くんもおはよ」
わたしの後ろに座る和也に笑う香奈美。
「ん」
…って、そんだけか。
香奈美はかわいいし、さすがの和也でもちょっとは…と思ったけど、そうでもないみたいで。
「橋戸くんはあいかわらずだね」
けど香奈美は、他の女子みたいに和也を見てキャーキャー騒いだりしないから、多分和也も嫌いではないと思う。
もっとも、香奈美には彼氏いるしね。
ひとつ年上の谷口先輩。
よくわたしたちのクラスにもやってくる。
「あ」
ドアの方をふと見て思わず声が出る。
「ん?」
香奈美もわたしの視線の先を見る。
「香奈美」
「斗真っ」
香奈美がぱあっと笑顔を浮かべてその人の方に走る。
その人が谷口先輩…谷口斗真先輩、香奈美の彼氏さんだ。
「ラブラブだねー、あのふたり」
「どうでもいい」
和也の方を振り返って言っても、あいかわらずな素振り。
「あ、ノートありがと」
「早っ」
「まあね。移し慣れてるから」
わたしの言葉に、和也は何も言わずにため息をつく。
「今日夕飯お前ん家行くから」
「あ、分かった」
和也の親は共働きで、たまに帰りが遅い日はこうしてわたしの家に来る。
「席つけー」
先生の声が聞こえ、わたしたちは席についた。


4時限目終了のチャイムが鳴る。
「ん〜っっ」
ぐいっと背伸びをすると、後ろからひとつに縛った髪を引っ張られる。
「うわっ」
「飯食うぞ」
和也が筆箱を片付けながら言う。
「その髪の毛引っ張るのやめてって」
はぁ、とため息をつきながら和也に言う。
正直、嫌ではないんだけど…。心臓に悪いからやめてほしいのは本当だ。
「香奈美〜っ!今日はー?」
「斗真と!」
はいはーいと手を振ると、迎えに来た谷口先輩とお弁当を持って教室から出ていく。
香奈美はときどき谷口先輩とこうしてご飯を食べる。
「じゃあー今日はふたりかー」
「腹減った」
目の前で男子サイズのお弁当を出す和也を眺め、自然と頬が緩む。
「…なに」
「んーん?お弁当よっぽど楽しみだったんだなぁーって思って」
ちっと舌打ちで返す和也。
まったく…。
「かーずやっ!!」
がしっと誰かが和也の肩を持つ。
その反動で和也が掴んだ唐揚げが再び弁当箱の中に落ちた。
「…っち」
うわ、和也顔怖っ…。
「…んだよ、颯太」
「なんだよじゃねーよ!俺のこと忘れてねー?」
なぁ?愛菜ちゃんとわたしに笑顔を向けるのは、香奈美と同じく今年から同じクラスの横山颯太くん。
わたしたちは基本、和也、香奈美、横山くん、わたしの4人でいる。
「うるせぇ」
「冷たぁーい。もういいもん、俺愛菜ちゃんに構ってもらう」
そう言いながらわたしの元に近づいてくる横山くんを眉間にシワを寄せて見る。
「うおっ……俺も食おーっと!」
横山くんは普段からこういうキャラで、クラスでもなかなか人気だ。
何か行事をするときはだいたいクラスの中心にいる。
そんな横山くんと和也が仲良しなのが不思議だ。
和也も嫌そうな顔はするけど、本当に横山くんのことが嫌いなわけじゃないし。
…つまり。
そんなふたりとよく弁当を食べているわたしはすごい目で見られるわけで…。
「あいかわらず視線が刺さる…」
「え?なんで?」
お前のせいだよ…と横山くんに言いそうになるのを堪え、別に?と引きつった笑顔を見せる。
特に、女子と喋らない和也と唯一話しているわたしは、和也のファンの子から相当恨まれている。
和也のファンは2、3年にもいるみたいで、正直この1年は怖い思いも何度もした。
「まぁあんな地味な子だし大丈夫でしょ〜」
と、わざと聞こえるような大きな声で言われたこともある。
まぁ…もう慣れっこなんだけどさ…。
────パク
我に返って自分の手元を見ると、わたしが箸で掴んでいた卵焼きに和也が食らいついていた。
「…っ!」
あまりの顔の近さに思わずたじろぐ。
「ちょ…和也!」
「うま」
怒るわたしをよそに、和也はぺろっと口の周りを舐める。
「楽しみにしてたのにー」
「おばさんの卵焼きうめぇし」
真顔のまま言われても信ぴょう性がない。
「もう…」
「ははっ、カップルみてぇ」
そう言って笑う横山くんの頭を思い切り叩く。
「いってぇ!!怒んなよ!」
横山くんのことは放置して、あと1つだけ残った卵焼きを慌てて口に運んだ。

和也は、女子嫌いのくせにずるい。
こんなことばっかりされてたら、わたしだって勘違いしそうになる。
分かってる。分かってるよ。
わたしたちは兄妹みたいなもので、和也にとってわたしは恋愛対象に入らないなんてこと…。

和也とふたりでわたしの家に帰る
「「ただいまーっ」」
ふたりで言うと、お母さんがキッチンから顔を出した。
「ふたりともおかえり」
まだ夕飯はできてないみたいで、わたしの部屋に入る。
「寝る。飯できたら起こして」
「ちよっ…わたしのベッドなのに!」
和也の肩を強く叩くと、うるせぇと小さく声が聞こえた。
朝早すぎだからじゃないの…?
和也がいる前では着替えられないし…隣の空き部屋に移って仕方なく着替える。
部屋着になって自分の部屋に戻ると、和也はすっかり寝息を出ていた。
大きな体が小さく丸まって、わたしのベッドの上で眠っている。
ふふ…かわいい。
ベッドにゆっくり腰掛け、和也の顔をのぞき込む。
布団もかけずに…仕方ないなあ。
タンスから毛布を取り出して優しくかける。
もう冬が始まる頃。いくら家の中でもさすがに寒かったみたいで、和也は無意識に毛布を掴んで肩の上まで上げた。
こうやってしていればかわいいのに…。
なんで普段からもっと愛想よくできないかなぁ。
…まあ、いいんだけど。
わたしだけと話してくれる、そういう特別感が、わたしは好きだから。
「…ん」
和也がくるりと寝返りを打ち、わたしの方に顔が向く。
────ドキッ…
長いまつげ。綺麗に通った鼻筋。薄い唇。細い顎。見た目よりさらさらな髪。
わたしだけが知ってる、和也の寝顔。
幸せだ。
今わたし、すごい幸せだ。
さらっ…とゆっくり和也の髪を撫でる。
ほら。こんなにさらさらしてる。
一度触れると戻れなくて、無意識に何度も撫でる。
心地よくて、温かくなる。
好き。
好きだよ。
和也のことが、この世でいちばん大好き。
伝わらない。
伝えられないなぁ…。

「…何してんの」
不意に低い声が聞こえ、びっくりして手を引っ込める。
髪ばかりに集中していたみたいで、和也が起きたことに気づかなかったんだ。
「ごめっ…」
「うわ、シャツぐしゃぐしゃ」
和也が自分のカッターシャツを見て顔をしかめる。
「当たり前でしょ。あんながっつり寝てたんだから」
ハンガーにかかった和也のブレザーを見ながら言う。
「…あ。布団さんきゅ」
「え?あぁ、うん」
珍しい。和也がお礼言うなんて。
まだ寝ぼけてるからかな素直な和也はかわいい。
「ご飯できたよーっ」
下からお母さんの声が聞こえ、わたしたちは下の階に下りた。

「和也くん、服ぐちゃぐちゃじゃない」
「んー…寝てた」
まだ眠そうに目を擦る和也にお母さんがやれやれと笑う。
「ダメじゃん。せめてお父さんのでも着とかなきゃ」
「別にいい」
あくびしながら答える和也にお母さんはまた笑う。
「あ」
和也が思い出したように声を出す。
「何?」
「今日風呂入ってっていい?」
和也が向かいに座るお母さんをまっすぐ見て言う。
「いいよ?じゃあパジャマとか下着とか…」
「ある」
わ。こいつ。
最初からそのつもりだったな。
「なんだ。じゃあなおさら断れないわね」
ふふっと笑うお母さんに、和也はぺこっと小さく頭を下げた。
「一番風呂ジャンケン」
わたしがグーを出すと、和也もため息をつきながらもグーを出した。
「じゃんけんっ…」
ぽんっと言ってわたしが出したのはチョキ。
和也はグー。
「うっわ負けた」
「よっしゃー」
棒読みな喜び方が余計に腹立つ。
「連敗記録更新だな」
「うるさいっ!」
肩を叩くわたしに、和也は少しだけ口角を上げてみせた。
…あ。笑った。
和也の笑顔は、本当にたまにしか見られない。
学校では絶対に笑わないし、多分表情筋が壊死してんだろうけど。
「ごちそうさま」
わたしは自分の食器を片付け、自分の部屋に戻った。

和也が家にいる状況は慣れた。
けど、やっぱり毎日好きは増してしまう。
いつか溢れそうで、怖い。
きっと…溢れたそのときが、わたしたちの終わりだから。
はぁ、と深いため息をついて勉強机にふっつぶす。
…ったく。
あいつはわたしの気持ちなんか全く気付かずに、好き勝手やって…。
「ばか…」
「誰が」
入口から声がして、驚いて体を起こす。
「はっ…!?てか、いつからいたの!?」
「今。誰がばかなんだよ」
お前だよ…。
じとっと睨むと、和也は「は?」と眉間にシワを寄せた。
「誰でもいいでしょー」
「宿題すんぞ」
和也がわたしのテーブルを自分の物のように扱い始める。
「ちょ、汚さないでよね」
「わーってる」
あっという間に勉強道具を広げた和也は、勉強のときだけかけるメガネを取り出し、宿題に取り掛かった。
かっこいいなぁ…。
伏し目がちなせいで、まつげの長さが際立つ。
その隙間から覗く瞳は少し茶色がかってる。
勉強机から離れ、和也の向かい側に座る。
「早くお前もやれよ」
「はいはい!」
和也に言われ、自分も宿題をカバンから取り出す。
和也は一度何かに集中すると一言も話さなくなってしまう。
いいんだけどさ。別に。
そんな和也のことを眺めてるのが、好きだから。

「風呂溜まったみたい」
そう言いながら和也が立ち上がる。
「1番ずるーい」
「一緒に入るか?」
和也が真顔で聞き返してくるから、一瞬動きが固まる。
「…冗談。ばかじゃねーの」
「…っ、ばかはお前だよ!」
和也の背中をグイグイ押し、部屋から出させる。
和也…冗談なんていうタイプじゃないじゃん。
そういうとこがだめなんだよ。

「あ、お父さんおかえり」
「ただいま。今風呂入ってるの和也か」
下の階に下りると、リビングにお父さんがいた。
「うん」
「泊まるのか?」
「さぁ?」
ピッとテレビをつけるお父さん。
「一応布団出しとけ」
「おっけー」
和也が家に泊まることもちょくちょくだ。
さっきあんだけ眠たそうだったし…もしかしたら泊まるっていうかもな。
チョコレートを持って自分の部屋に戻り、押入れから敷き布団を出し、自分のベッドの隣に敷く。
ここがいつもの和也の寝る場所だ。
「あっちー…」
ガチャっと部屋の戸が開き、タオルで髪を拭きながら和也が入ってくる。
「あいかわらず早いね…って、服着てよ!」
和也は上半身裸でわたしが今敷いた布団に飛び込む。
「暑いし」
「風邪ひいても知らないよ。…って、髪も乾かしてないし」
待ってて、と言い残し部屋を後にする。
「愛菜お風呂はー?」
「先入っていいよー。ドライヤーだけ貸して」
お母さんに言い、洗面所からドライヤーを持ち出して自分の部屋に戻る。
「いいって別に」
「だめ。ほら後ろ向いて」
しぶしぶわたしに背中を向ける和也の髪を撫でる。
うわ、ほんとに乾かしてないし…。
こんなことばっかして…絶対いつか風邪ひくよ。
「お前の乾かし方、眠くなる」
「大丈夫、寝たらドライヤーで叩いてあげるから」
何も返事はなかったけど、多分今眉間にシワ寄ってるな。
そんなことを考えて静かに笑う。
「…もういい」
和也がわたしの手を軽く叩く。
「は?まだ乾いてないし」
「しばらく起きてるからいい」
もう、と言いながらドライヤーを切り、洗面所に戻しに行く。
全く…人の心配なんて全然気にしないんだから。

部屋に戻ると、和也は布団の上でわたしの漫画を読んでいた。
「少女漫画、面白い?」
「全然」
じゃあなんで読むんだか。
また笑いが込み上げる。
面白くないって言う割には黙々と読んでるし…よっぽどやることないんだな。
「愛菜ー!お風呂空いたよー!」
「はーい」
入ってくるね、と和也に言うと、和也は小さく頷くだけしてみせた。

お風呂から上がると、和也はもう布団で眠っていた。
はっや…。
和也を踏まないように自分のベッドに行き、和也の方を見る。
さっきよりも無防備な寝顔。
ふふっ…口開いてるし。
「好き」
静かに呟いたわたしの声は、和也に届くことなく消えた。
…何言ってるんだか。
小さくため息をつき、部屋の電気を消してわたしも眠りについた。

「和也ー、起きて」
わたしが揺すると、和也はぐっと目をつむり、布団に潜り込んだ。
「ちょっとー…。いつもはわたしのことうるさく起こすくせに…」
そう言いながらカーテンを開けると、小さな声で「眩しい…」と聞こえてきた。
「普通に学校あるんですけど。着替えたいんですけど」
「勝手にしろよ」
勝手に…って、和也の前でさすがに着替えはできないでしょ…。
「はいはい起きるー」
無理矢理布団をはがすと、和也はさらに縮こまって枕に顔を埋めた。
「和也!」
頭をガシッと掴むと、和也はわたしの手を叩いてようやく起きた。
「やっと起きた」
「朝からうるせぇ…」
和也はいつもこうだ。
泊まりにくるときも、向こうに泊まりに行くときも、だいたいわたしが起こす。
泊まらないときは和也の方が早いのに。
けど、昔から家族ぐるみだからそれすらも慣れてしまった。
それくらいの付き合いだから。
兄弟みたいなものだから。
だから。
この気持ちは、絶対に誰にも言えないんだ。
言ったとき、わたしたちのこの“当たり前”が、全部崩れちゃうから。


隣にいられるだけで…ただそれだけでいいから…。

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a . k __.
a . k __.
マイペースに書いていきます🌸 亀更新🐢 ⚠️ 吹き出し使わない。 ⚠️ 自分の名前で読めない。