前の話
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ーあの日からちょうど1年がたった。
そう、あたしの友だち 梅井 芽衣が事故に遭い、意識不明になってしまった日からー…
あたしと芽衣は同じ高校でテニス部に所属していた。
いつもバカしあっては、笑いあっていた。
しかし、そんな楽しい日々は一瞬にして奪われた。
雪の降るとても寒い日、バス停にいた芽衣をトラックが轢いたのだ。
芽衣の母親から、そのことを告げられた時、きっとあたしはすごく酷い顔をしていたと思う。
すぐに芽衣が運ばれた病院に向かった。
芽衣は凄まじい姿で横たわっていた。
芽衣の母親いわく、芽衣はいつ目覚めるか分からないそうだ。
あたしはずっとそう喚いていたらしい。
しかし、何でわめいてたのかが思い出せない。
その日から、あたしは大人しくなった。
ある日、あたしは友達から「会いたい人に会わせてくれるお地蔵さまがいる」と聞いた。
あたしの足は自然とそのお地蔵さまへと向かっていった。
お地蔵さまがいた。そのお地蔵さまは優しい顔をしていた。
涙しながらそう言った時、お地蔵さまの口が開き、あたしを吸い込んでいく。
ー会いたいひとに会わせてあげましょうー
そんな声とともに、あたしはお地蔵さまの中へと吸い込まれていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!