いや、借りたも何も勝手に取ってきちゃ駄目でしょ。
そう言って帰ろうとする先輩の腕を掴む。
さっきまで悪口言ってたくせに。
漫画の主人公見たいにうまいことは言えない。
けど、今 言いたいことは言った。
まだまだあるけど先輩が俯いてるからきっとわかってくれたんだろうと思いこの辺でやめることにした。
先輩の顔を覗き込むように言った。
急に声を張り上げる先輩に驚いて離れようとしたときだった。
パンッ
と乾いた音と同時に頬に走る痛み。
咄嗟に頬を抑えた。
叩かれたということを理解するまでそんなに時間はかからなかった。
後輩に注意されるのも少し上から目線だったかもしれない私の態度も先輩を苛つかせるのには十分すぎた。
私が指差したパスケースを隠すように両手で包む先輩。
あぁ、面倒くさい。
無理矢理にでも取ってやろうか
と思い手を伸ばし先輩の腕を掴んだ
__ 否
掴もうとした
タイミングがいいのか悪いのか
少し涙を流したであろう目元を赤くした七瀬がこちらに歩いてきた。
彼が泣くほど大切にしているパスケースは今、先輩の手の中にある
けど、私がそれを言っていいのか
今更だけどそれはなんか違う気がする。
先輩と七瀬2人で話すべきではないのか
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!