2学期に入っても、イジメが終わることはなかった。
それでも、学校に通いつづけた。
ただうつむいて教室のすみで座っていた。
ある日、両親にイジメのことを初めて打ち明けた。
血の繋がりがない両親は困った顔をしていた。
教師と同じことを永遠と述べたあと、私を置いて食事に行った。
死のう、と思った。
家の近所にある廃墟同然のビルから飛び降りた。
それが、数刻前の話。
死んだ……ーーはずだった。
うっすらとまぶたを持ちあげた。
空。
雲。
……鳥?
気づいたら外で寝ていた。
あたりを見渡すも見たことのない景色。
遠くに古そうな木造の家が目に入った。
上半身を起こして、自分の身体を眺める。
5階から飛び降りたにも関わらず無傷だった。
あまりに非現実的で頭のなかがカラッポになった。
そのせいで妙に落ちついてしまった。
どうしてこんなところに寝ていたのか記憶を辿ったけどわからない。
もしかしたら、自殺したのは夢で、寝ぼけてここへきてしまったのかもしれない。
すこし無理があるけど、それならありえる。
小さくうなずくと顔をあげた。
すると、遠くから数人の「時代劇の衣装を着た男のひとたち」が走ってくるのが見えた。
やっぱりへんだ、と思った。
近所に時代劇の撮影スポットなんてない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!