「じゃあ…ルールは同じでいいよな?
サイコロはまた菜波が振ってくれ。」
ひゅっ、と音をたてて、青いサイコロが投げられた。
私はそれを素早く右手でキャッチして、自分の持っていた赤いサイコロと一緒に左手に持つ。
「…わかりました。でも、その前に少しいいですか。」
「ん?どうした?」
サイコロの仕掛けはもう見破った。
おそらく、もう他に仕掛けはないだろう。
しかし、サイコロを振るのは私。サイコロの選択権は先輩にある。
亜紀の命を握られている今、それに反発することはおそらく不可能だ。
先輩が投げてきた青いサイコロを右手に持ちかえて、手のひらで転がす。
重心は変わらずずれているようだ。
だとしたら…私が勝てる可能性のある方法はおそらく一つだけ。
勝てるかはわからない…。
けど、やるしかない!
「次のゲームの勝利選択権を得られるのは、“数の小さな目を出した方”でいいですか?」
私はまっすぐに先輩を見つめる。
先輩は私を見つめ返して考え込んでいたけれど、最後の悪あがきだとでも思ったのだろう。
ふっ、と笑みを零して、
「…いいよ、どうせ最後だしね。
でも、サイコロの選択権は変わらずに俺にある。
……俺は、赤のサイコロを選択する。」
先輩がそう言った。私は赤いサイコロを先輩に見えるように右手でつまんで、「これですね?」と確認した。
「あぁ。それにするよ。」
「……では、私はこっちにします。
…それじゃあ、振りますね。」
私はもう片方のサイコロを握った左手を見つめて、そう言った。
先輩が選んだのは、右手の赤いサイコロ。
__これで、この勝負は私の勝ちだ。
私は勝利を確信して、“2つの赤いサイコロ”を中に放った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!