「なっ…?!」
先輩が驚愕に目を見開く。
床に落ちたサイコロの目は…
右が6、左が3。
__私の勝ちだ。
「何で…何で“どっちも赤い”んだよ?!
サイコロは赤と青の2つだったはず…!」
「よく見てみてください。
サイコロは、“赤と青の2つのまま”ですよ?」
先輩はふらふらとこっちに歩み寄ってきて力なく膝をつくと、床に転がる2つのサイコロを拾い上げた。
片方は、赤いサイコロ。
そしてもう片方は…
血で赤く塗られた、青いサイコロ。
私が先輩に見せたサイコロは、実は青いサイコロの方だったのだ。
サイコロを赤く染めたのは、亜紀の血。
亜紀が私を救ってくれた…。
「これで、勝利条件の選択権は私のものですね。
勝利条件は、数が小さい方が勝つ。」
先輩は床に膝をついたまま、ワナワナと怒りに体を震わせていた。
「カードを出すのは先輩からで構いませんよ。」
勝利条件を決められたからといって、まだ安心はできない。
先輩のカードによっては、私が負けてしまう可能性もあるからだ。
といっても、1回目のゲームで私は先輩の手札を一瞬見ている。
あそこにあったのは、全部で4枚。
ハートの5、スペードの8、スペードのジャック、そしてダイヤのK。
あれで全部なら、私の勝ちは確定だ。
「…俺は、ハートの5を出す。」
そう言って、先輩は力なくハートの5のカードをこちらに向かって投げた。
カードはひらひらと宙を舞い、私の足元に滑り落ちる。
「私は、ハートの2を出します。
終わった…。これで、全部終わり…。」
呟いて、先生を呼んで亜紀の治療をしてもらおうと端末を手に取ったとき……
先輩が、私の腕を掴んだ。
「ゲームはもう終わったの…
これ以上邪魔しないでよ!!」
叫んで、振り払おうとするも、なかなか振り払えない。
それどころか、そのせいで端末を落としてしまった。
「なぁ…。俺とチームを組まないか…?」
チーム…。確か、説明で見たことがある。
同じマークのカードを出したら、その人たち同士でチームとやらを組める。
チームとは文字通り仲間のようなもので、チームを組んだ仲間とは手札を共有することができるらしい。
チームを組んだゲームでは、ゲームの勝敗は無くなり、ポイントも減らないんだとか。
「……。」
「なぁ、知ってるだろ?チームを組めば、ポイントも減らないしお互い生きて帰れる…。
そうしたら、もう二度と菜波に関わらない。
時間が経てば、カード変更と共にチームも無くなる。だから…。」
先輩は必死にそう訴えてくる。
そんなにポイントが大事?
亜紀のことは平気で見殺しにしたくせに?
そんなの、許せない……!
私の中で怒りが湧き上がった。
胸の中でどんどん膨らんでいくそれを抑えられずに、私は叫ぶ。
「亜紀をこんなにして、そんなのが通じるとでも思ってるの?!?!
ポイントどころじゃ済まさない…。あんたにも、同じ目に合ってもらう…!!」
床に落ちた端末から、先日見た猫のキャラクターのホログラムが出てきた。
「このゲームの掛け金は、ゲーム終了後にゲームの勝者が決めるように設定されている。
…よって、ゲーム勝者は掛け金を決めよ。」
その猫は私を見て言った。
先輩は、未だに私を説得しようとしている。
__私は、静かに口を開いた。
「掛け金は……
手持ちのポイント全額とするわ。」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。