第16話

回想 ゲーム 6
41
2018/08/05 07:58







「なっ…?!」



先輩が驚愕に目を見開く。


床に落ちたサイコロの目は…


右が6、左が3。



__私の勝ちだ。



「何で…何で“どっちも赤い”んだよ?!

サイコロは赤と青の2つだったはず…!」



「よく見てみてください。

サイコロは、“赤と青の2つのまま”ですよ?」



先輩はふらふらとこっちに歩み寄ってきて力なく膝をつくと、床に転がる2つのサイコロを拾い上げた。


片方は、赤いサイコロ。

そしてもう片方は…


血で赤く塗られた、青いサイコロ。



私が先輩に見せたサイコロは、実は青いサイコロの方だったのだ。


サイコロを赤く染めたのは、亜紀の血。


亜紀が私を救ってくれた…。



「これで、勝利条件の選択権は私のものですね。

勝利条件は、数が小さい方が勝つ。」



先輩は床に膝をついたまま、ワナワナと怒りに体を震わせていた。



「カードを出すのは先輩からで構いませんよ。」



勝利条件を決められたからといって、まだ安心はできない。


先輩のカードによっては、私が負けてしまう可能性もあるからだ。


といっても、1回目のゲームで私は先輩の手札を一瞬見ている。


あそこにあったのは、全部で4枚。

ハートの5、スペードの8、スペードのジャック、そしてダイヤのK。


あれで全部なら、私の勝ちは確定だ。



「…俺は、ハートの5を出す。」



そう言って、先輩は力なくハートの5のカードをこちらに向かって投げた。


カードはひらひらと宙を舞い、私の足元に滑り落ちる。



「私は、ハートの2を出します。


終わった…。これで、全部終わり…。」



呟いて、先生を呼んで亜紀の治療をしてもらおうと端末を手に取ったとき……


先輩が、私の腕を掴んだ。



「ゲームはもう終わったの…
これ以上邪魔しないでよ!!」



叫んで、振り払おうとするも、なかなか振り払えない。


それどころか、そのせいで端末を落としてしまった。



「なぁ…。俺とチームを組まないか…?」



チーム…。確か、説明で見たことがある。


同じマークのカードを出したら、その人たち同士でチームとやらを組める。


チームとは文字通り仲間のようなもので、チームを組んだ仲間とは手札を共有することができるらしい。


チームを組んだゲームでは、ゲームの勝敗は無くなり、ポイントも減らないんだとか。



「……。」



「なぁ、知ってるだろ?チームを組めば、ポイントも減らないしお互い生きて帰れる…。

そうしたら、もう二度と菜波に関わらない。

時間が経てば、カード変更と共にチームも無くなる。だから…。」



先輩は必死にそう訴えてくる。


そんなにポイントが大事?

亜紀のことは平気で見殺しにしたくせに?


そんなの、許せない……!



私の中で怒りが湧き上がった。

胸の中でどんどん膨らんでいくそれを抑えられずに、私は叫ぶ。



「亜紀をこんなにして、そんなのが通じるとでも思ってるの?!?!

ポイントどころじゃ済まさない…。あんたにも、同じ目に合ってもらう…!!」



床に落ちた端末から、先日見た猫のキャラクターのホログラムが出てきた。



「このゲームの掛け金は、ゲーム終了後にゲームの勝者が決めるように設定されている。

…よって、ゲーム勝者は掛け金を決めよ。」



その猫は私を見て言った。

先輩は、未だに私を説得しようとしている。



__私は、静かに口を開いた。



「掛け金は……

手持ちのポイント全額とするわ。」

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