店内には、クラシックが流れ、ほかのお客さんの喋る声が聞こえる。
でも、このテーブルには、会話がなかった。
ただ、なにも話さないまま食べ物を喉に通すだけ。
こんなの、美味しくない。
メニューの半分ほど運ばれてきていた時、お母さんのスマホがまた鳴った。
画面を見るなり、またため息をついて、どこかへ行ってしまった。
急に名前を呼ばれ、驚いた私は、ぎこちなく返した。
私は黙って頷く。
昔、お父さんもお母さんも成績優秀だったらしい。
この成績を取っても、親は満足しないだろう。そうは思っていた。
でも、親は出張ばかりで成績のことはあまり聞いてこない。
正直、私に興味ないくせにそんなことを言わないで欲しい。
そのまましばらく無言が続き、お母さんが戻ってきた。
最後にデザートが運ばれ、食後の紅茶を飲んでいると、進路の話になった。
やりたいこと…
頭の中で、一瞬今きている服のことがよぎった。
おじいちゃんみたいに、こう言う服を作って私みたいに幸せになってくれたら…
そう私が言うと、お母さんは深くため息をついた。
あぁ、もうなんなの。
気づいたら、そう言っていた。
自分でも驚いた。
考えずに、パッと出てしまった。
でも、本当にその通りで、私に良い成績を求めて、良い大学に行かせて、なにをさせたいの。
お父さんとお母さんはなにも言わなかった。
低く、通る声で言った。
ふざけてない。
私は、周りを気にせずに大きな声で言った。
もう、止まらない。
涙があふれ、次々と流れてくる。
私は、バックを手にし、走ってレストランから出た。
慣れないヒールで、とにかく走った。
途中、足が痛くなっても、なんでもよかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。