第94話

レストランにて
3,233
2018/10/14 09:18
店内には、クラシックが流れ、ほかのお客さんの喋る声が聞こえる。


でも、このテーブルには、会話がなかった。


ただ、なにも話さないまま食べ物を喉に通すだけ。


こんなの、美味しくない。


メニューの半分ほど運ばれてきていた時、お母さんのスマホがまた鳴った。


画面を見るなり、またため息をついて、どこかへ行ってしまった。
お父さん
あなた、
あなた

は、はい?

急に名前を呼ばれ、驚いた私は、ぎこちなく返した。
お父さん
最近どうだ、
あなた

えっと、普通?
順調だよ。

お父さん
そうか。
じゃあ、成績は?
あなた

…悪くはない。

お父さん
けど、良くもないと?

私は黙って頷く。
お父さん
どのくらいなんだ?
あなた

五段階評価で、4と5が半々くらい……


昔、お父さんもお母さんも成績優秀だったらしい。


この成績を取っても、親は満足しないだろう。そうは思っていた。


でも、親は出張ばかりで成績のことはあまり聞いてこない。
お父さん
もう少し出来るだろう。

正直、私に興味ないくせにそんなことを言わないで欲しい。
あなた

はい、

そのまましばらく無言が続き、お母さんが戻ってきた。
お父さん
仕事か?
お母さん
えぇ、ちょっとね。

最後にデザートが運ばれ、食後の紅茶を飲んでいると、進路の話になった。
お母さん
どこに行きたいの?
あなた

まだ決めてない。

お父さん
やりたいことはないのか?

やりたいこと…


頭の中で、一瞬今きている服のことがよぎった。


おじいちゃんみたいに、こう言う服を作って私みたいに幸せになってくれたら…
あなた

わからない、けど、ちゃんと決める。

お母さん
成績は?良いの?
あなた

4と5が半々。


そう私が言うと、お母さんは深くため息をついた。


あぁ、もうなんなの。
あなた

お母さんたちは、私になにを求めてるの。

気づいたら、そう言っていた。


自分でも驚いた。


考えずに、パッと出てしまった。


でも、本当にその通りで、私に良い成績を求めて、良い大学に行かせて、なにをさせたいの。


お父さんとお母さんはなにも言わなかった。
あなた

良い成績を取って、いい大学に行って欲しいの?
私がいい成績を取ったら褒めてくれる?そんなことを一度もなかったよね?
それに、いい大学に行っても、私のやりたいことができるとは限らない。
私にとってのいい大学と、お母さんたちにとってのいい大学は違う。

お父さん
ふざけるな。

低く、通る声で言った。


ふざけてない。
お父さん
誰のおかげで学校に通える。
誰のために親が働いていると思ってるんだ。
お母さん
そうよ、あなたのためでしょう?
必死で働いて…
あなた

そんなこと一度も頼んでない!!


私は、周りを気にせずに大きな声で言った。
あなた

私のため!?笑わせないでよ!
私がどれだけ寂しかったか、悲しかったかなんて知らないくせに!

もう、止まらない。
あなた

小さい頃から、一人だったし。
お手伝いさんはいたけど、私はお父さんとお母さんと一緒に居たかった!
学校行事も来てくれないし!
お仕事が忙しいのはわかってたけど、それでも私と一緒に居て欲しかったの!
最近は、海外に出張することが多くなったし、いつどこに行ってるのかさえわからない。


涙があふれ、次々と流れてくる。
あなた

私はただ、お金があって、苦労しないで生活できる家がよかったんじゃない!
例え、お金がなくて、貧乏でもいいから!
愛の溢れた家に生まれたかった…

私は、バックを手にし、走ってレストランから出た。


慣れないヒールで、とにかく走った。


途中、足が痛くなっても、なんでもよかった。

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