あの日は風邪をひいて、一人きりだった。
お手伝いさんの、佳奈さんはなぜかその日は居なかった。
熱が出て、頭が痛くて、このまま1人で死んじゃうんじゃないかとも思った。
そんな中、お母さんが帰ってきてくれた。
そう問いかけられ、軽く頭を振る。
お母さんが階段を降りていく音がなんだか嫌だった。
お母さんが買い物から帰ってきて、少しするとお父さんも帰ってきてくれた。
きっと、あの時期はかなり忙しかったはず。
そんな中2人が帰ってきてくれて、そばにいてくれるのはものすごく嬉しかった。
正直、このままずっと風邪をひいていたいと思った。
でも、廊下で話している2人の会話が耳に入った。
大きなため息をつき、一言言った。
“仕事が一番”
なら、私は?家族は?
……何番目なんだろう。
私は、幼いながらこの会話を聞いて思った。
お父さんとお母さんに迷惑かけちゃダメだって。
2人は、仕事が一番。
もし、私がなにかやらかしたら…………
そう考えると夜も眠れなくなる。
いい子でいなきゃ。
そう強く思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!