先生を助けるためには、
先生のことをよく知ること。
あの時何があったのかを知ること。
そして…
先生との距離を縮めなければならない。
その後の授業では、
ひたすらこれからの計画をノートに記した。
そして放課後。
私は先生に数学準備室に呼ばれていたんだった…。
これで先生に会いに行くのも
1つのチャンスだと思う。
ねぇ、先生。
私、頑張って先生を助けるから…!
ガラララ
「失礼します…」
普段はあまり入ることのない数学準備室に入る。
________先生はいるかな…?
見ると、先生は椅子に座って何かを書いていた。
「せんせ?何書いてるんですか…?」
「!、び、びっくりした!な、南雲か…」
先生は書いてた紙を急いで引き出しの中に入れた。
手紙のような紙に辞……と書いてあるように見えた。
「呼ばれたからきただけですよ」
「そ、そうか…っ。」
先生は落ち着きを取り戻そうと深呼吸をして、
私に目を合わせてきた。
「とりあえず、そこ座れ。」
先生の指差す先は先生の隣の空いてる席だった。
多分誰か来た時のために用意してある席だろう。
言われた通りに席につく。
「今日、おかしかったけどなんかあったのか?」
そう言って先生は私の頭をポンっと叩いた。
そして軽く撫でる。
「ん……特に。」
これしか答えられない私。
だって実際にあの時のことを言っても信じてもらえないから…
未来で死んだあなたを助けに来ましたって言ったところでいい気分になる人はいない。
それでももうちょっと可愛く答えられたのではないかとは思うけどしょうがない。
少し俯く私の顔を覗き込もうとする先生。
先生の顔は…本当にかっこいいと思う。
高3の私と先生の年齢差は10歳もないから親近感がある。
ってこんなこと考えてる場合じゃない…。
「なんかあった時は…はいたほうがいい」
そう言って苦しそうな声を出す先生。
それは……
私のセリフ。
もしあの時が自殺ならば、
先生は誰にも言えないで…
1人で悩んで結果死を選んだことになる。
「そうです…よね。でも、先生もですよ。」
「俺は……大丈夫」
遠回しに先生に伝えると、
先生は少し困った顔して笑った。
大丈夫…じゃないんだ。きっと。
「大丈夫…じゃなさそうな顔してる」
「…っ、そ、そうじゃなくて俺じゃなくて…今は南雲の心配中だ!」
先生は頑なに自分のことを語ろうとしない。
まあそれもそうか…。
急に生徒にこう言われても、
何か言おうという気にはならないと思う。
「でも…心配。」
私の悩みは先生がいま何を抱えてるか、だ。
だから先生が私の心配事を解決してくれるとするならば、
先生が自分の悩みを打ち明けてくれるのが解決することになる。
「ちょっと身内の関係で色々あるだけだよ、それにしても…南雲はすごいな。俺がちょっと悩んでるってなんでわかった?」
「さっきの驚き方と……いままでの表情…?」
「それだけでわかるとか…メンタリストかよ。じゃあ次は南雲の番な?」
そう言って私の目を見てくる先生。
私の番…って言っても何もない…。
「私は…本当になにも」
「んー……じゃあわかった!少しずつなら喋れるか?」
「え、あ…多分…?」
喋れるもなにも人に言える悩みではない。
「なら、明日から放課後少しの時間数学準備室に来い!」
「え…」
予想外の展開に間抜けな声を出してしまった。
いや、もしかしたらかなり順調な展開なのかもしれない。
これで先生のことを4日間で知ることができれば…。
「…いや?」
「…先生がよければお願い…します」
「よし、決まり、なっ!」
この4日間で先生のことを知って…
先生を助けられるか。
でも放課後こういう状況になれたのは、
かなり自分でも進展できたと思う。
頑張って先生を…助けるんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!