…久々の数学準備室だな、なんて。
何しに来たとか言われて突き放されたらどうしよう。
…そう思うと少し怖い。
それでも、このままは嫌だから…。
数学準備室の前のドアに立つ。
緊張して、
このままやっぱり諦めちゃおうかという気持ちもある。
…でもそれじゃダメだ。
ガラララ
勇気をだして数学準備室のドアを開ける。
「せ、先生いますか…?」
先生がいるかどうか、周りを見渡してみる。
……先生は、
あの時のようにこの教室にいた。
私の姿に気づいたのか、
先生はこっちをみて、
少しため息をついた。
_____あぁ、やっぱり来ちゃダメだったんだ。
そう思った時、
先生は私に向けて
「……待ってたんだけど?」
と一言言った。
「えっ…」
予想外の返事に間抜けな声を出してしまう。
……先生が私を…待ってた?
先生が少しずつ私に近づいてくる。
「…あの事件が終わってから、南雲はここに来なくなったし…目が合っても逸らされるし…、あぁ、本当に南雲は俺を助けるだけのつもりで、俺に気なんてなかったんだな、ってもう諦めかけてた…でも。」
先生が私の腕を掴み、ぐっと先生の方に引き寄せた。
「えっ…あ、先生…」
先生との距離の近さに、思わず顔が赤くなってしまう。
「ここに来たってことは…期待していいってことか…?それとも…最後のお別れを言いに来たのか?」
そういうと先生が真剣な眼差しで私を見てきた。
そ、その言い方だと……
先生がまるで私を好きみたいな言い方…。
「それ…じゃ…先生が私を好きみたい……」
と、ボソリと呟くと、
先生は私の目を見たまま
「俺は…南雲のこと好きだよ、立場としてダメなのは分かってる…。それでも…真剣に俺を助けようとしてくれた…南雲のこと忘れられない」
と言ってきた。
…ドキッと胸が高鳴る。
嘘……じゃあ、私と先生は…両思いってこと?
嬉しくて涙が出そうになるのをぐっとこらえる。
「……南雲はどうなの?」
先生が私の方を見て優しく微笑む。
それは勿論……
「……私も好きです…。好きだから…先生を絶対に助けたいと思った…」
自分の言った言葉に顔が赤くなる。
でも……この気持ちに嘘はない。
そういった瞬間、先生は私をぎゅっと抱きしめた。
「ん…嬉しい」
「卒業するまでは、ここでこうしたりすることしかできないし…、メールとか電話も少ししかできないかもしれない…、満足出来ない恋になるかもしれないけどそれでもいいのか?」
と、先生は不安そうな声で私に聞いていた。
__________私が好きなのは先生。
例え、普通の恋ができなくても、
先生と結ばれるだけで…私は嬉しい。
「私は…先生の傍にいれれば…それで幸せです」
「…ありがと」
先生は私を抱きしめる力を少し強める。
あの日何故私が過去に戻れたのかはわからない。
あの喫茶店は何だったのかも。
でも、あの出来事から…
積極的に何かをするようになったり、
自信を持てるようになったり、
色々と得たものがたくさんある。
今度先生が何か困ってたりしたら…
未来からじゃなくて、
隣で私は先生を助けるんだ。
_____ねぇ、先生。
「私、先生が大好きです。」
_____今度は隣で先生を助けます。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!