前の話
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「なんで俺...こんなことに...!」
砂漠のど真ん中で、涙を流しそうな青年がいた。
着けているマントは、日差しを遮れている感じがしない。
「もう...無理だ...。」
その場に倒れ込み、意識が朦朧としていく。
「早く...帰りたい...よ...。」
視界が暗転し、気を失う。
とまあ俺がこうなった事には理由があるのだ。
ある日突然。
本当に、予兆なんてなかった。
いつもの様に学生の仕事をまっとうするために、死んだ目で学校への道を歩いていた。
そりゃあ、こんな生活嫌だ。早く違う世界に行きたい。ここにいちゃダメなんだ。もう死のうかな。
くらいは、思っていた。
でも...でも!転生するなんて聞いてない!
昼休みに屋上に上がると、扉を開けた瞬間から何もかもが止まったように、景色が固定されたようだった。
「な、なんだ...?」
昼ご飯を食べに来ただけなのに、こんな変な事に出会えるとは思ってもいなかった。
少し怖い気持ちを持ちながらも、扉が閉まってしまったのでなんとなく前に出てみた。
いつもの様にコーヒー牛乳を飲みながら、座ってフェンスに寄りかかっていると、急に眠くなった。
そして、目覚めたら異世界にいた。
転移系のファンタジー物はいくらでもある。
現実逃避したいやつが勝手に考えたことだ、と前までは思っていた。
「なんだこれ!?」
その時は同様はしていたものの、夢じゃないとわかると少し嬉しい気持ちもあった。
「俺...異世界に来ちゃった!?まじで!?やったー!」
異世界感はあまりなかった。
ただの草原だったから。
でも何故か、魔法の世界であることはわかった。
異世界といえば魔法、そんな考えがあったのだと思う。
「さて...まずはどこに行けばいいんだ?定番としては街だっけかな?」
方位磁針も地図もなかったが、感で歩き始めてみた。
しばらくすると、道が見えてきた。
といっても、立派な道ではなく、草が抜かれて人が歩けるくらいの細い土の道だった。
「どっち行こうかなぁ。」
迷いつつも、ここも感で右を選んでみた。
すると、俺は運がいいらしい。
ちゃんとした街に辿り着くことができた。
怖い叔父さんやモンスターで溢れているかと思えば、警備の人が少し怖いくらいだった。
モンスターもいないし、普通に人が行き交いしていた。
とても賑やかで、市場の真正面の入り口から入ったみたいだ。
「よし、辿り着いた!ここで何だっけか?防具を揃えてギルドに行くんだっけ?」
俺の言った通りに、全てが揃っていた。
RPG系のゲームや、ファンタジーの物語も嘘を言っているわけではないらしい。
近くにいた女性に笑顔で話しかけると、相手も笑顔で対応してくれた。
ギルドの場所を教えてもらい、道順にすすんでいく。
しばらく行くと、木造の一際大きな建物が現れた。
少し見ているとたくさんの人が出入りしていることがわかった。
それはそれは十人十色で、個性に溢れていた。
屈強な男もいれば、布で体中を覆っている怪しいやつ、綺麗な女の人や、執事のような服を着た人。
たくさんの職業があることが、今見ただけで知ることが出来た。
少し躊躇ったが、ギルドに入ってみた。
中には、たくさんの声が行き交っていた。
笑い声、怒鳴り声、または無口にひっそりと座っている人もいた。
異世界に来て気づいたが、この国は髪色も目の色も、みんな違う。
黒髪黒目は俺は珍しいのだろうか、先ほどからそばの椅子に座っている女性三人が見ている。
俺は少し気まずくなり、着ていた服のフードを被る。
相手も察してくれたのか、話に戻り始めた。
「すいません、ここで仕事を紹介してもらえると聞いたんですが...。」
初対面は印象が大事だ、と聞いたことがある。
笑顔で丁寧な口調で話しかけたとは思う。
「ああ?横の掲示板から探してくれよ。あんた新入りか?」
「はい、そうです。今日この街に来ました。」
「へぇ、黒髪黒目とは珍しいねぇ。」
やはりこの街では、珍しいようだ。
「ありがとうございます。」
早々に例を言って、掲示板の方へと目を移す。
意外なことに異国ではあるものの、字も読めるし言葉も通じるみたいだ。
転生というのは便利なものだ。
とりあえず、新しい街に来たからには、そこに慣れなくてはいけない。
国の基本的な知識を聞いて回ろうと思う。
だが、俺は少しコミュ障なところがある。
人に聞くのが苦手なので、掲示板に書いてあった地名や人の名前を全部覚える勢いで見ていく。
「この依頼をお願いします。」
カウンターのところにいたおじさんのところに戻り、紙を一枚手渡す。
「ほう、これでいいのか。がんばれよ
よ、ぼっちゃん。」
言い方が癪に障るが、神対応で返しておく。
難易度などのところはよくわからないが、砂漠によく出るサソリのようなモンスターを倒してほしいらしい。
「さて、最初の依頼。がんばるか。」
一文無しなので、おじさんに頼み込んで日除け用のマントと、鉄のボロい剣をもらった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!