会場の生徒は文字に置き換えられない驚きを感じたのか、ただおもむろに力強い拍手、よく響く拍手、音のこもる拍手など、多彩な音が聞こえたのは確かだった。
彼女の“挨拶”とはこのように堅苦しいものなのか、いやこれほどまでに美しいものなのか、と口に出てしまいそうになったのは生徒だけではない。
教師たちも固まるほどのものだった。
担任の先生、八槙先生やまきが彼女に近寄ってきた。
八槙は見た目からして低身長。150あるかないかのとても小さい人だ。
従って、なのだろうか。
胸はとてもなだらかだ…。
「珠咲ちゃん。ありがとねー!ほんと、ヨシとヒロとは違うしっかり者ねーっ!」
ヨシとは、珠由(みよし)。
ヒロとは、珠広(みひろ)のことだ。
彼らはとても似た双子だ。
八槙は去年、珠咲の双子の兄、ヨシの方の担任だった。
昨年と一昨年はヒロの担任だった。
「いいえー。兄は私より仕事が早いので…。」
謙虚なところがどこか可愛らしい。
彼女を目で追っていた者は、その姿に一人、彼女の今の表情だけをひたすら脳内で想像していた。
「それは2人合わせてだからねー。」
珠咲のボケには少し華がある。やはり、お嬢様らしいところが見える。
「止めてくださいよ?せんせ~。兄に勝ちどころがなくなってしまいます(笑)」
一応、正直者のようだ。
「そうだね…(汗)」
八槙と彼女の会話は周りから見ると“兄というつてで先生に気に入られようとしている”というようにも見えた。
だが、あの挨拶を聞いたからか、そのように思う人間はほんの一握りに過ぎなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。