聞けば分かる。
この音はシャーペンなんかではない。
8割、9割の人間が、鉛筆だ。
全員が鉛筆、シャーペンを置いたところで始まる。
右手でそろばんと鉛筆を握り、左手で紙をめくる。
これは同時作業。
いかに早くスタートできるか。
この1問5秒の世界では最初の時間稼ぎが足下を掬うことになる。
ハジメ…!!という言葉は省略される場合がある。
理由は、ハジメと言っているが、選手達の指はもう問題に向けられているからだ。
ハジメをいっている辺りで1問目が終わる人間だっている。
──例えば、三筆千樹と川見万裕。
彼らは会場を、2人しか使っていない空間を知らない間に作り出していた。
カサササ…普通のスピードではない。
ずば抜けてきれいなリズムの早い音が聞こえる。
その音主はすぐ分かる。
“そろばんに水が流れている。水を泳ぐ魚のように指が優雅に動く”
有名なフレーズ。千樹のことを指す言葉だ。
その千樹の弾く音はたった一人。体育館中に響く。
緩成はひたすら腕を動かす。
休めることなく数字を書き込む。
その声は選手にとって集中力をとてつもない勢いで切るものだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。