1月のある寒い夜、私は自室で制服を着たまま机に向かっていた。
「よしっ!」
バッと先程描いていた紙を両手で広げてみる。
「うんうん!上手く塗れたかな!」
私はあるイラストレーターに感銘を受けてイラストレーターを目指し、某雑誌に投稿する為に日々ひたすら絵を描いていた。
「あとは装飾を描いて…」
どういう装飾にしようかと参考の本を読みだしたとき、コンコンとノックの音がした。
「愛?入っていいかしら?」
「待って!」
私は慌ててイラストレーター関係のものを隠し、勉強道具を机に置く。
いいよーと声を掛け入ってきたのは私のお母さん。
「夜食、ここに置いて置くわね。」
お母さんはオニギリ2つと私の大好きなお菓子がのったお皿を、扉のすぐ側のテーブルに置いた。
「うん。」
私はチラッと夜食を確認すると適当に返事をして、机の上に並べられた教科書に目を落とした。
「もうすぐ、愛も高校受験ね。」
休憩しつつね、なんてお母さんは言いながら私の背後にまわって様子を見てくる。
私は早く行ってくれないかな、と若干イライラしながら適当に相槌を打っていたらお母さんが突然声を荒げた。
「…ちょっと!愛!」
一瞬、適当に相手をしていたからかなと思ったがどうやら違ったみたいだとすぐに分かった。
お母さんの視線が、慌てて片付けたイラスト関係に使うペンや本に向けられていた。
慌てて片付けたから引き出しからはみ出てたらしい。
「これで何度目よ!
もう1ヶ月後には受験なのよ!
あなた、この前も勉強するって言ってイラストばっか描いて!
もうイラストは受験終わってからってこの前約束したよね?」
「ああ〜うるさいな!
やってるよ!でも息抜きに描いたっていいでしょ!?」
「息抜きのレベルじゃないから言ってるんでしょ?」
「今日はほんの少し描いてただけだよ!」
「受験もタダじゃないのよ?
受験料だって払うし、あなたこの前の模試の判定も厳しかったじゃない。」
「もう!うるさい!出てってよ!」
私は思わず、机の上に置いてあったクマのぬいぐるみをお母さんに投げつけた。
「…っ!
…愛、自分がしたこと分かってるの?
謝りなさい!」
「部屋から出てって!」
「あなたが出ていきなさいよ!」
お母さんは私の腕を掴んでそう言った。
私はその言葉にカチンときて、つい言ってしまった。
「…分かった。出てく。」
お母さんはハッとしたような顔をしたが、それを無視して私は続けて言った。
「お母さんのとこなんかに産まれて来なきゃよかった!誰が産んでくれって頼んだのよ!」
私はそう言って家を飛び出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。