第8話
*
後ろを向いたまま急かしの言葉が投げかけられる。
その言葉を聞きたっくんが振り向く。だけど、なにも言わず黙り込んでしまった。
やっぱりガキの時代知ってるのに、今更こんな格好してもときめく訳なんてないか……。
たっくんにしては珍しく俯きがちの小声で言ったためよく聞こえず聞き返す。
顔も赤らめて私の目を見ずに言う。
思ってもみない言葉が鼓膜を揺らし、動揺が隠せない。
自分で自分の顔なんか見えないけど今の私は多分りんご病状態だ。
思ってもみなかった。好きな人に言われるちょっとした言葉がこんなにも嬉しいなんて。
言葉一つでこんなに喜んだり、悲しんだりできることを。
真っ赤になってる顔を見られたくなくて、たっくんに背を向けると、後ろにたっくんの気配を感じる。
なんでだろう。やっぱり信じられない。
死んだなんて嘘だよね……。たしかに気配感じる。
生きてるから気配感じるもんだよね!
ほんとは今までの話なんて全部嘘だよ!って笑ってくれるんだよね!
頭の中で大会議を行ってる私を横に、たっくんがドアをすり抜け部屋の外へ出ていく。
あぁ、また心の中のどこか奥深くにあった期待が崩れ去った。
私の希望はドミノ倒しのようなもの。
小さな希望を、少しずつ、少しずつ並べても、ちょっとした振動ですぐ倒れて、めちゃめちゃになってしまう。そんな儚いものなのだ。
今にもショートを起こしそうな思考回路を強制停止させたっくんの後を追いかける。