一度深呼吸をして、部屋に入ると、ベッドの上に誰よりも会いたかった人が眠っていた。
顔も傷だらけで、酸素マスクもはめられてて、全然姿はさっきと違うけど誰よりも会いたかった人。
パイプ椅子に座り、たっくんの左手を握る。
手の温もりが伝わってきて、生きてるってことを改めて実感する。
手をギューッと握ると、人差し指がピクッと少しだけ動いた。
ゆっくりと目を開ける。
その瞬間せっかく止まった涙がまた溢れ出した。
不思議そうな顔で私を見る。
きっと自分は死んだと思ってるんだろう。
たっくんに軽くデコピンをする。
会話の一つ一つで幸せを実感する。
触れられること……たっくんの笑顔が見れること。
ほんとに何気ない当たり前のことなはずなのに、そんな当たり前がなによりの幸せに感じる。
男らしいゴツゴツした手で私の涙を拭う。
たっくんの顔には、あの時の悔しそうな表情はない。
私も、作り笑いなんかじゃなくて、ほんとの笑顔でたっくんを見つめる。
傷だらけの体を起こしてたっくんがまっすぐ私を見る。
さっきまでのにこやかな表情から真剣な顔に変わる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。