4月9日…
キュッ、キュッ、バシン、
「ラストー!ナイスキー!」
「智紗都ナイッサー!」
この体育館。私は好きだ。
今から智紗都がたくさんサービスエース決めるんだろうなとか思った時も別に嫌いじゃない。
バン、
「速攻くるよ!」
バシン、
「春奈ナイスカット!」
「レフトオープン」
バコン!
『ナイスキー智紗都!』
皆口々にそうゆう。智紗都は私の親友だ。
私達は傍先(はたさき)高校女子バレーボール部。
3年主将 菅野 智紗都 ws
3年 塩崎 春奈 Li
あとは2年だ。3年はこの二人だけ。1年生が何人入部してくれるか私はとても楽しみだった。
「スパイク練習!」
『はい!』
バシン、バシン、バシ、バシ、バシン…
体育館はバレーコート2面分ある。隣のコートから聞こえてくるボールの音に集中を妨げられる。いや、隣のコートにいるあいつに。でもきっと私の声なんてひとつも聞こえてない。どんなに大きな声で叫んでもきっと。まるでコートとコートのあいだになにか高い壁でもあって全く別の空間みたいに。でも、それでいいんだ。私はプレーに集中しないと。
今日から一学期だ。
外からは野球部のランニングの声が聞こえてくる。そして、鶯の声も…ホーホケキョ、チャチャッチャ、ホーホケキョ…あぁ、春だ…そう心のどこかで思う。本当に鶯の声で春だと確信したと言いきれない自分がいる。本当に「春は曙」。私はきっとあいつに恋したんだな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!