ケント君が渋々といった感じで口を開く。
「俺の家族があの事故で死んだからだよ」
「だから事故を無くそうとしたってこと?」
確認の意味を込めて重ねて尋ねれば、苛立ったようなケント君の怒鳴り声にびっくりした。
「そうだよ!父さん達は死んだのに!なんで事故を起こしたアイツは生きてるんだよ!父さん達は何も悪いことしてないのに!」
彼はわざわざ自らを危険に晒し、法を犯してまで家族を助けようとしていたのだろうか?
彼にとって家族はそんなに大事なのか?
理解し難い。なんでそんなことしたんだろう?
それも聴いておくべきかも知れない。うん、そうしよう。断じて個人的な興味じゃない。
「なんでそんなことしたの?」
「だから、父さん達が死なないようにするためだよ!分かるだろ?アンタにも家族とかいるだろ?」
そんなこと言われても、家族は居ないしなぁ。
どうしようか。わかったことにしようか。
どう返すものかと考えていたら司令官から連絡がきた。司令官はちょっぴり怖い。
「おい、もう終わったか?」
「っ、はい!もう、終わります。今から報告に行きますので。」
どうやらかなりの時間が経っていたらしい。
リュウが言い合いなんかするからだ。
「終わったか?」
「うん。報告行かなきゃ」
「それじゃ、コイツ連れてくぞ」
ケント君のことはリュウに任せよう。ケンカしても僕のせいじゃない。
「じゃあ、僕は報告に…………ケンカしないでね?」
少し心配だけど、2人に念押ししつつ報告に向かった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!