カウルの愉しそうな表情に僕は嫌なものを感じ取る。
噂好きのカウルがろくでもないことを思い付いた時、大抵こんな顔をする。
同い年の僕は何の因果か、カウルの無茶によく巻き込まれている。
今日も無茶苦茶だろうなぁ。諦めよう。
そんな僕を他所にカウルは話し出した。
「お前さ、ここに来る前の事覚えてる?」
「いや?覚えてないよ。それがどうかした?」
意外な質問に答えればカウルはやっぱり、とでも言いたげな顔を見せた。
「ここに居るやつさオレが知ってる限りみんな覚えてないんだよ。ここに来る前の事」
「うん」
「てことはさ、孤児じゃ無かったって言えないだろ?」
「でも、孤児だったとも言えないよ」
「ケント?だっけ?アイツは孤児なんだろ?普通は孤児が居たら国が運営している孤児院があるんだから、そこに入れるだろ」
「でも、じゃあ、覚えてないのは?なんで?」
「そんなの記憶を消されてるからだろ」
「どうやって?」
「そりぁ、そういう技術があるんだろ。歴史も変えられるんだぞ?記憶を消すぐらい造作も無いだろ」
そう言われれば確かにそんな気がしてくる。
それにその話は筋は通っている。
カウルの言う通りなんだろうか。
そうだとすれば少し怖い。
「全部、憶測だけどな」
カウルの言葉に驚いた。今すぐにでも司令部に聞きに行きそうだったから。
「カウルは噂を解明してどうしたいの?」
「ここ何か胡散臭いだろ?それを解明して、お前らの思い通りにならねーぞって言ってやるんだよ」
反抗期か。そんなことして何になるんだよ。
言っても無駄なので黙っている。
「じゃあ、オレはもう行くわ。コイツに仕事の
説明してやらないとだし」
じゃあなー、なんて暢気に言って去っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!