ーーーー帰りーーーーーーーーーーー
私は葵に言われた通り、椎野先生に会いに椎野先生がいるであろう【国語準備室】に来た。
職員室にいない時はいつもこの準備室にいるんだよね、椎野先生。
ここの準備室の中は1度だけ入ったことあるけど、
先生の私物のようなものが置かれていて、
周りは本棚でいっぱいなの。
扉の目の前まで来ているものの、
扉を開ける勇気がなかなか出ないよ。
でもいつまでもここに突っ立っていたら怪しまれるよね…。
私は緊張しながら、
ゆっくりと扉を開け、
準備室の中をチラッと覗きこんだ。
中には…誰もいない…?
先生が座っているはずの椅子には誰も座っていなかった。ひょっとして先生、今どこか行ってるのかな。
扉をゆっくりと開けながら小声で言う。
中に入ると、先生がいつも座っている椅子と机。
机の上には…
机の上に置かれてあった先生の本を手に持つ。
これは、私が欲しいなーと思ってた本だ。
最近発売されたんだけど、
お金がなくて買えなかったんだよね~。
先生がこんな本読んでるなんてビックリだけど。
だってこれ…恋愛小説だよ?(笑)
あの椎名先生がこんな恋愛小説なんて…
信じられない。
あ、もしかしたら借り物だったり?
あ、ひょっとしたらあれかな。
彼女にでも貰ったのかな?
…いや、でも、先生彼女いないって言ってたし…。
なーんて考えながら先生の椅子にゆっくりと腰を下ろし、小説をパラパラとめくる。
めくって読んでいるとしっかり読みたくなって、
私はいつの間にか夢中で読んでしまっていたらしく、かなりの時間が過ぎていたよう…。
いきなり声が聞こえたかと思えば肩に乗せられた手。
恐る恐る顔を上げると…
そこには椎野先生がいた。
いつの間に入ってきてたの!?
扉あける音なんて聞こえてないよー。
それくらい、小説に集中しちゃってたのか…。
先生にどうやって言い訳しよう…
と、色々考えていると
ぶっきらぼう口調に、思わずビクッと肩を揺らす。
カタコトになりながら、先生に必死に謝る。
意外な先生の一言に呆然とする。
今は別に冷たい接し方だなんて思わない。
なんで?
そう呼び掛けた声は、
少しずつうわずってしまった。
緊張するけど、聞かなきゃ。
と、ギュッと拳を握りしめた。
先生はそんな私には目もくれず、
興味無さそうに
また、ぶっきらぼうにそう言った。
先生は驚いたのか、目を見開き、
私をじーっと見つめる。
やっと、ちゃんと私を見てくれた…。
私が緊張しながらもしっかりとそう告げると、
先生はなぜだか私から目をそらし、
窓の外を眺めた。
すっと通った鼻筋に、綺麗な唇。
少しうつむいてるために、
眼鏡の奥の瞳は前髪で隠されてしまって、
よく見えない。
けど…
笑ってる…?
少しだけ、先生が微笑んでみえるのは
私のきのせい…なのかな。
真っ直ぐに私の目を見据える先生の顔は
もう、笑ってはいなかった。
しっかりと目に映る先生の顔を見て私は
そう、呟いていた。
そう言われて、私は焦った。
"先生に見惚れていました"
なんて言えるわけがない!
あーダメだ。
全然言い訳が思い出せない…ッ
そこまで言うと、
先生はケラケラと笑い出した。
まるで、子供のように…。
先生、笑うとこんな可愛いんだ。
なんだか、
いつもと違う先生を見られた気がして嬉しくなる。
先生は笑っていたかと思えば急に真顔になり、
先生を見て、ニコニコ笑っていた私を睨んでくる
拗ねたようにそう言う先生にまた笑いそうになるのを必死におさえる…が、やっぱり笑ってしまう。
恥ずかしいのか、顔を手で覆い下を向く先生に不思議な感覚を覚えた。
この感覚は、いわゆる、「キュン!」ってやつ?
GAP萌え?
こんなイケメンな先生がこんな可愛い仕草するなんて…やばすぎだから(笑)。
誰だってキュンってくるよねぇ。
やっぱり今日先生に会いにきて正解だったなぁ。
先生は良い先生なんだと知れたから。
先生と、しっかりと話せるようになったから。
先生が私のこと嫌いじゃないってことがわかったから。
そう言って微笑んでみせると、
先生ははぁ。と大げさなため息を吐き、
軽く睨んできた。
…先生、わかってんのかな?
そんな睨みなんて、逆効果だってこと。
先生に睨まれた生徒、きっと叫びますよ。
キャーーー!ってね。
だって…そんな睨んでる顔も
素敵だと思えるから。
ペコリと頭を下げ、踵を返す。ーと、
先生の優しい声が聞こえてきて、
ゆっくりと振り返る。
椎野先生は私の目をしっかりと見て
"この前のテスト、あれは最悪だ"
と笑いながら言ってくる先生。
と、軽く返し、
先生の顔をもう一度しっかりと見つめる。
不審そうな声で聞かれ、ハッと我に返り、
笑顔で両手を思いっきりふったら、
先生も笑って片手を上げてくれた。
それが、
凄く嬉しくて跳び跳ねるくらいに嬉しくて…
私は家までの道なりを鼻歌混じりに歩いた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。