第18話

story
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2018/02/04 04:21
学校の校門の前に停まる見慣れたクラウン。

煙草を口にくわえて、携帯をいじる。
そんな彼が愛しくて仕方なくて、
思いっきり抱きついた。
本谷 蘭 (もとや らん)
雅紀さん♪ 
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
ば、バカ∥ここまだ学校…
そう照れたように言う彼。
そう言いながらも、
両手でギュッと抱き締めてくれるんだ。

それにしても、
こんな風に照れる彼は珍しい。
いつもなら"重いからどいて"
とか、冷たいことしか言ってくれないのに…。
ここが学校だからだろうか。
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
やっとか…おめでとう
私の手元を見て、
微笑む彼に私も微笑み返す。
手に持つ、卒業証書をバッと広げて自慢げに。
本谷 蘭 (もとや らん)
もう子供扱いさせませんからねぇ
"高校卒業したんだからもう大人の仲間入り"
そう言うと、
彼からは、
"いや、まだ子供だろ?"と返ってくる。
うん、やっぱり思った通りの返事だ。
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
皆、大人びたなー 
"あ!アイツ、背が伸びてる!"
向こう側から見える卒業生たちを誇らしげに見つめ、嬉しそうな声をあげる彼。

そりゃ、嬉しいよね。
自分の教え子たちが、卒業なんだもん。
本谷 蘭 (もとや らん)
私は私は!?
何か変わった!?
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
えぇ?んんんんんん
俯き、考えるポーズをとった彼を
ジーっと見つめていると…
彼は満面の笑みでこちらを見た。
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
わからんわ。
ずっと一緒にいたからな。
背も相変わらずちっさいし(笑)
そこまで言うと、大爆笑をした。
…許せない!!
背が低いのはコンプレックスだってあれほど言ったのに!!
私はカンカンに怒って、
もう今日は口聞いてやらない!
そう思ったのに…
椎野 雅紀(しいの まさき) 先生
でも、俺は今の蘭が好きだから。
変わらなくたっていい
その言葉を聞いたら、
そんな考え吹っ飛んでしまった。





こうしてあの椎野先生と付き合えているのが
未だに夢なんじゃないかと疑うほど不思議に思う。



【…ー2年生に進級した日の帰りー…】





1人で帰り道を歩いていると、
クラウンが私の目の前まできて停まった。

恐る恐る近づいていくとやっぱり…


『椎野…先生?』


『久しぶりだな。
て言ってもまだ2ヶ月くらいしか経ってねーけど』

『な、何で…ここに…?』

『…とりあえず、乗ってくれるか?
周りの目が…』

そう言われ周りを見てみると、
生徒でいっぱいになっていて、
皆こちらを見ていた。
ハッとして急いで車に乗り込むと、
先生は車のエンジンをかけて走り出した。
『お前…まだ俺のこと好きなのか?』


『えっ?…好き、だけど…
あ、でも!!付き合いたいとかそういうの考えてないんで、安心してください!』



『俺、言われて気づいたんだ…』
『何を…?』


『宮本に…』


『え、輝…?』


『俺は、怖かったんだ。
自分の本当の気持ちに気づくのが。
もし、気づいてしまったらお前を傷つけてしまうんじゃないかと…
けど、それは単なる逃げだったんだよな』
『えっ…?』
先生はずっと俯いていて、
どんな表情をしているのか分からないけど、
声が…震えているような気がした。
『俺…頑張り方、間違ってた。』


そう言ってギュッと私の体を抱き締めた。
『もしかしたら、噂が広がったりしてお前が傷つくことになるかもしれない。
俺と付き合うことで、周りに冷たい目でみられることになるかもしれない
だから…だから、
お前は俺なんかを好きになっちゃいけないんだ』
"好きになっちゃいけない"。



その先生の一言が胸にグサッと刺さる。

付き合ってくれなくたっていい。
ただ、
好きでいるだけならいけないことじゃない。

私は、好きになっちゃいけない人を好きになってしまった…?

ただ、好きになってしまっただけなのに、
そんなに責められるの?




いつまで抱き合っていたのだろう…。
バッと体を離されて先生の切なそうな顔が目に入る。

けど、その先生の顔が歪んで見えて…
ハッとして自分の顔に手をやろうとした、
その時…
何かが私の頬に触れた。



私のじゃない…


先生の手。
『やっぱどっちにしろ、
泣かせてしまうんだよな。ごめん』
"ごめん"


その言葉が聞こえてきた瞬間、
たまらず声を上げた。
『謝らないで!
謝って、ほしくなんかない!
私が欲しいのはそんな言葉じゃなくて…っ』

目に涙を浮かべ、
そう言う私に目を見開く先生を見ていると

いつの間にか目の前が真っ暗になっていた。
『…好きだ』
私はまた先生に抱き締められていた。


『えっ!?嘘。何言って…』


『嘘じゃない。』

その先生のハッキリとした声に思わず目を見開く。


『我慢できなかったのは…俺の方だった』


『よ、よく意味がわからないんですけど』


『…だから俺は。お前が好きだってこと』


『何で!?いきなりそんなこと言われても…信じられません!もっと具体的に説明して下さいよ!?
私が納得できるように!』


『はぁ!?…』


ため息をついて、先生は煙草を口にくわえた。
でも、火をつける気配はなくて…


『お前と離れてから…
お前のことばっか考えて。
お前から離れられなかったのは、
俺だったんだ。』


『えっ…それってつまり…
私のこと、好きだってこと、ですか?』


そう問うと、先生は顔を背けて
顔を真っ赤にさせた。
そんな先生を見て、思わず吹き出してしまった。


『…なんだよ』

拗ねたようにそう言う先生に
また笑ってしまいそうになるのを必死に抑える。


『だって…。
大人なのに、先生って、可愛い♪(笑)』



『悪かったな…遅くなって』


『遅すぎだよ…』


『…まだ、時間はかかるけど。
お前が、高校卒業したら、
ちゃんと、付き合ってほしい。
それでも、俺でいいのか?』


『っ、もちろん!!』
先生と初めて想いが通じあったこの日を


私は一生忘れない…。

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