…その言葉に何も言い返せなかった。
否定することも、できたはず。
なのに…
どうしてすぐに否定することができないの?
どんどんと流れ出てくる涙。
もう、抑えることができないくらい、
気持ちがあふれでてくる。
もう、ダメだ…。
そう思った途端、
私は走り出した。
こんな二人を、もう見てられない。
見なければよかった。
そしたら、こんなに…
こんなに苦しい思いをしなくても
済んだんじゃない?
ただただ走る私に何も言わず走ってついてくる輝。
誰もいない、屋上へとつくと、
私は腰を下ろした。
そんな私の隣に黙って腰をおろす輝。
逃げた…?
私がいつ逃げたというんだろう?
まただ…。
"椎野のことが好きなんだ"。
その言葉を言われてしまうと、
私は何も言えなくなってしまう。
だって、私はきっとまだ…
輝の言葉を遮るかのように、
私は大声を上げた。
輝の言うとおり、私は
椎野先生のことが好きなのかもしれない。
惹かれているのは事実だ。
理想のタイプって感じで、好き。
でも、その"好き"が何なのか分からないんだよ。
だって、
私はまだ引きずっているから
あの日のことを。
あの日、出逢ったあの男の人のことを…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!