ぴたり、と足を止める羽瑠。
その目には光なんて入っていない。
焦点の合わない目。
怖くて声がうまく出せないってこういうことなんだなって思う。
喉のところで声が詰まる感じ。
頬にあった彼の手は下へと下がってきて今は首元にある。
さらり、と触れる手がくすぐったい。
何がしたいのかさっぱりわからなかった。
そのまま放っておいていれば
………彼の手は丁度ワイシャツの第一ボタンのところ、鎖骨の真ん中のくぼみの少し上辺りを力強く押してきた。
なんのことだかわからなかったのは一瞬で、気づいた頃にはもう息が上手くできなかった。
まるで首を絞められているように苦しい。
彼が何をしたいのかわからない
手を離してほしくて今出る精一杯の力で彼の手を掴む。
……………が、
いくら可愛らしい容姿をしていてもやはり相手は男子。
女の私が力で敵うわけ無い。
私の手はいとも簡単に彼の空いている方の手に囚われてしまう。
羽瑠の言ってることなんてちゃんと聞こえるわけない。
今は酸素を取り入れることに精一杯。
目の前がぐるぐるする。私このまま死ぬのかな……ッ
周りの生徒がざわついている声が聞こえる。
こんな大勢の前で死ぬのか…目立つなぁ……………。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!