トントン、と肩を叩かれ目を開ける。
すると、優しそうに微笑んだアオイさんがいた。
私が起き上がると、彼は胸の前で両手の人差し指を向かい合わせにぺこりと曲げた。
『おはよう』という手話だった。
それに微笑み返すと、私も同じように胸の前で人差し指をゆっくり曲げた。
『おはよう』
たどたどしい言葉で朝の挨拶をした。
私は、小さい頃から歌が大好きだった。
けれど、不運な事故から、私は声と耳を失ってしまった。
そのせいで最初はとても困った。
今まで手話というものに関わりがなく、人に意思を伝えることができなかった。
人にぶつかってしまって、誤解を招いたこともあった。
私たちが出会ったのも、運命だったのだろうか。
言葉を伝えられなくて困っていたとき、アオイさんがそんな私を見つけて代わりに私の言いたいことを伝えてくれた。
突然のことに驚いていると、かれは手話で『大丈夫ですか?』と聞いてきてくれた。
私たちが意気投合して、付き合い始めるまでに、そう時間はかからなかった。
私が声と耳を失ってしまったのはアオイさんと出会う前だから、私は彼の声を知らない。
彼も私の声を知らない。
2人とも、互いの声を知らないまま、私たちは時を過ごしていった。
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こんにちは、作者です。
この回のお話は、お二人の前世のお話です。
ごっちゃにならないようにお気をつけください。
そして、これから先、所々に彼女たちの前世のお話が混ざってきます。
現在と前世の見分け方をお教えしておこうと思いました。
今までのチャプター名は例えば
【最初の魔法】
とかでしたよね?
【□つ目の○○】
というふうにしています。
現在のお話は○○の部分を感じにしておりますが、前世のお話はその部分をカタカナになっております。
あと、簡単な見分け方で行きますと、【】が付いているか付いていないかですね。
わかりにくい説明で申し訳ありません。
それではまたお会い致しましょう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。