前の話
一覧へ
次の話

第20話

16個目の絨毯
26
2018/02/19 09:18
いつの間に寝てしまったのだろう。

立ち上がるとドッと疲れがのしかかってきた。

あのノイズのせいだろうか。

とりあえず、顔を洗おうと、鏡の前にたつ。

「え…なんで。」

私の両目からは、涙が頬を伝ってこぼれ落ちていた。

夢を見た記憶はある。

もしかして、悪夢とかだったりした?

いや、違う。

違う、もっと、何か…

「そうだ…幸せな、夢だった。」

思い出せそうで思い出せない。

顔を洗ってリビングに戻る。

スッと視界の端にソファーが映った。

その瞬間。

思い出した。

私がなんの夢を見ていたのか。

そして、これから私…いや、私たちに起こることもなんとなく理解した。

「そういうことだったんだ…。」

そうだとしたら…

ううん、たぶんこれが正解だ。

だとしたら、

「神様は相当イタズラが好きみたい」

含みを持った笑いとともに聞こえたその言葉。

振り返ると、案の定イブだった。

「今、そう思ったでしょ?」

ニンマリと笑ってイブは言う。

「イブ、わかった。…わかったの。私たちに降りかかる不幸が。なんで、麗も苦しむことになるのか。」

ねぇ、イブ。

答えて。

「私と向葵さん。両思いになるんだね?」

「…案外早かったね?なに?なんかあった?」

私は、夢のことを話そうと思ったがやめた。

彼女の性格上、鼻で笑われて終わりそうだったから。

「私、なんとなくはわかった。でも、まだ不確かなところがあるの。もういいでしょ?詳しく教えて。」

「うーん、まあ、いいかな。合格点まではあと少し足りないけど、特別に許してあげる。」

イブはこちらにクルッと背を向け話し始める。

「あなた達は、前世恋人同士だった。それの血の関係かしらね。あなた達自身、互いに惹かれ会い始めているの。最近、触れてないのに前世を視ることが何回かあったんじゃない?それも原因の一つよ。まあ、ざっくり言うと、」

イブはソファーにストンと座る。

「貴方と彼は、引き離すことのできない前世の血液から、自然と惹かれ合う運命なの。もしも、貴方に好きな人がいても。」

「もし、私が、麗を好きでも?」

「ええ、貴方に流れている血には逆らえない。」

もし、私が麗を好きでも。

この血液が流れている限り、私は向葵さんに惹かれていくんだ。

「いつかは、私の麗への思いも消えていっちゃうんだ。」

「だから、人間って醜いのよ。貴方達のする約束なんて、歩くことよりも簡単に壊れてしまう。」

イブの顔は、どこか悲しそうだった。

その姿は、いつもの彼女からはあまりにも想像ができなかった。

私は思わずイブの左手を両手でギュッと握った。

「ねぇ、貴方。それでも、彼を愛するの?」

その言葉は、とても簡単に私の心を抉ってみせる。

イブは私の手を握り返した。

けれど、私は、この気持ちを前世だからと言って消えさせたくはなかった。

「うん。私、もし、麗を愛せなくなったとしても、この愛が消えるまでは彼にもらった愛を返したい。せめて、返してあげられるような何かをしたい。幸せにしないで諦めるなんて絶対に嫌。」

「そう、やっぱり。人間って馬鹿な生き物ね。」

「知ってる。」

「私がここまでいってあげたのに。」

「うん。」

「なんで言うこと聞かないのよ。」

「ごめんね。…だから、…泣かないで?」

細められた赤色の瞳にはあふれんばかりの涙がたまっていた。

私がそういった途端、堰を切ったように溢れ出す涙は、なんのためのものなのか私には全くわからない。

なぜ、泣いているのか、

なぜ、悲しいのか、

わからない。

涙を拭こうと、ハンカチを取り出し渡そうとすると手を払われた。

「いや。人間の、貴方の助けなんてかりられない。」

そう言って、立ち上がって玄関へと向かう。

私はただ、それを見つめるしかできなかった。

「ちゃんと、、約束を果たさなきゃ。」

最後に彼女が言ったその言葉が、なぜか私の耳からずっと離れなかった。

プリ小説オーディオドラマ