いつの間に寝てしまったのだろう。
立ち上がるとドッと疲れがのしかかってきた。
あのノイズのせいだろうか。
とりあえず、顔を洗おうと、鏡の前にたつ。
「え…なんで。」
私の両目からは、涙が頬を伝ってこぼれ落ちていた。
夢を見た記憶はある。
もしかして、悪夢とかだったりした?
いや、違う。
違う、もっと、何か…
「そうだ…幸せな、夢だった。」
思い出せそうで思い出せない。
顔を洗ってリビングに戻る。
スッと視界の端にソファーが映った。
その瞬間。
思い出した。
私がなんの夢を見ていたのか。
そして、これから私…いや、私たちに起こることもなんとなく理解した。
「そういうことだったんだ…。」
そうだとしたら…
ううん、たぶんこれが正解だ。
だとしたら、
「神様は相当イタズラが好きみたい」
含みを持った笑いとともに聞こえたその言葉。
振り返ると、案の定イブだった。
「今、そう思ったでしょ?」
ニンマリと笑ってイブは言う。
「イブ、わかった。…わかったの。私たちに降りかかる不幸が。なんで、麗も苦しむことになるのか。」
ねぇ、イブ。
答えて。
「私と向葵さん。両思いになるんだね?」
「…案外早かったね?なに?なんかあった?」
私は、夢のことを話そうと思ったがやめた。
彼女の性格上、鼻で笑われて終わりそうだったから。
「私、なんとなくはわかった。でも、まだ不確かなところがあるの。もういいでしょ?詳しく教えて。」
「うーん、まあ、いいかな。合格点まではあと少し足りないけど、特別に許してあげる。」
イブはこちらにクルッと背を向け話し始める。
「あなた達は、前世恋人同士だった。それの血の関係かしらね。あなた達自身、互いに惹かれ会い始めているの。最近、触れてないのに前世を視ることが何回かあったんじゃない?それも原因の一つよ。まあ、ざっくり言うと、」
イブはソファーにストンと座る。
「貴方と彼は、引き離すことのできない前世の血液から、自然と惹かれ合う運命なの。もしも、貴方に好きな人がいても。」
「もし、私が、麗を好きでも?」
「ええ、貴方に流れている血には逆らえない。」
もし、私が麗を好きでも。
この血液が流れている限り、私は向葵さんに惹かれていくんだ。
「いつかは、私の麗への思いも消えていっちゃうんだ。」
「だから、人間って醜いのよ。貴方達のする約束なんて、歩くことよりも簡単に壊れてしまう。」
イブの顔は、どこか悲しそうだった。
その姿は、いつもの彼女からはあまりにも想像ができなかった。
私は思わずイブの左手を両手でギュッと握った。
「ねぇ、貴方。それでも、彼を愛するの?」
その言葉は、とても簡単に私の心を抉ってみせる。
イブは私の手を握り返した。
けれど、私は、この気持ちを前世だからと言って消えさせたくはなかった。
「うん。私、もし、麗を愛せなくなったとしても、この愛が消えるまでは彼にもらった愛を返したい。せめて、返してあげられるような何かをしたい。幸せにしないで諦めるなんて絶対に嫌。」
「そう、やっぱり。人間って馬鹿な生き物ね。」
「知ってる。」
「私がここまでいってあげたのに。」
「うん。」
「なんで言うこと聞かないのよ。」
「ごめんね。…だから、…泣かないで?」
細められた赤色の瞳にはあふれんばかりの涙がたまっていた。
私がそういった途端、堰を切ったように溢れ出す涙は、なんのためのものなのか私には全くわからない。
なぜ、泣いているのか、
なぜ、悲しいのか、
わからない。
涙を拭こうと、ハンカチを取り出し渡そうとすると手を払われた。
「いや。人間の、貴方の助けなんてかりられない。」
そう言って、立ち上がって玄関へと向かう。
私はただ、それを見つめるしかできなかった。
「ちゃんと、、約束を果たさなきゃ。」
最後に彼女が言ったその言葉が、なぜか私の耳からずっと離れなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。