ふと、私は馬鹿な事を考えてしまった。
残り少ないハーブティーを見つめる。
誰が差し出したかも分からないような、このメモ用紙に期待をしてしまった。
例えば、これを差し出したのが魔物だとしたらどうなるだろう。
きっと、それは危険だけど、今の私の証明するのにもって来いの案だ。
その魔物から自分の身を完全に守れるのが前提になるけど。
私がハーブティーから目を離すと、草木の番人がこちらを見ていたのに初めて気づく。
そう言うと、学校にある1番高い塔から鐘の音が鳴り響いた。
気づけば、もう夕方になっていたらしい。
窓から差し込む光は先程よりもオレンジの色が増している。
私はルーズリーフと小さなメモ用紙をバッグに入れると、席を立つ。
椅子を入れて、淡々と歩き、扉の前で草木の番人に向かって軽くお辞儀をした。
初めて会った時と同じで、草木の番人はあまりこちらを見ていなかった。
重い扉を押す。
私の扉を押す手が止まる。
それはどちらの『分かった』だろう?
『分かった、名前を教えよう』という意味なのだろうか。
答えはすぐに出た。
何も言わなかった。
ただ、少しだけ軽く手を振っていた。
私は、(なぁんだ)と思い、お辞儀をして返す。
そして、強く扉を押した。
今度はちゃんと、私が外に出られるように。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!