すぐに魔物に背を向け、走り始める。
さっき通った道を戻るように辿った。
((やばい…さっきまで、叫んでて…喉が…息がしにくい…っ、))
私はできる限り大きく呼吸をするように試みる。
と、足元の木の根に気づけなかった私は、まんまとつまづき、体勢を崩す。
山道が下る方へと転げ落ちる。
それは惜しくも知らない道の方で、真っ暗な森の中。
腕や足、もちろん胴体に制服の上からでも、木の枝などが軽く刺さるような痛みが転げ落ちると共に私を襲う。
起き上がろうとする頃には、擦り傷は切り傷で私の体はぼろぼろになっていた。
((早くしなきゃ、))
振り返ると既に魔物が私の後ろに立っていた。
((やっぱり、速い!))
レオの言葉が私の頭に蘇る。
『人間の力でもう1回やってどうなるんだよ。相手は魔物だから、そんなことしたって意味があるとは思えないけど。』
そうだ、人間とは全く違う。
大体、私が証明するって、どうやって?
手段なんて最初から無かったじゃない。
ヘラり、ヘラり…そんな風に歩み寄る魔物。
私は這い蹲うように進んでいく。
さっきの転げ落ちた時のせいで腰を痛めた。
多分、もう走れない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!