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第1話

違う世界の人間 ※じんside
2,280
2018/01/18 05:47
" 好き " ってなんだろう
ふと、そんな事が頭をよぎった。

俺はこの感情がよくわからない。
それは、他人にも抱かれたことがないし自分でも誰かに抱いたことがないから。

別にいじめられてる、なんて事はない。
毎日自由に高校生活を過ごしているし、俺の中では結構充実してると思う。

でも俺はいつもひとりでいる。

人と話すのも苦手な訳でもないし、人が嫌いな訳でもない。ただひとりが好きなだけ。

じん
さむっ…
学校帰り、俺はひとりで家の近くの小さな書店に向かっていた。風が顔にあたる。

もう1月か…時が過ぎるのって早いなぁ。

着けていたマフラーに顔を半分埋め歩く。
俺が向かってる書店は、あんまり人が通らないところに建っており俺にとっては好都合だった。
俺の好きな文庫本もたくさん売ってるし、よく行くお店でもうお店の人全員の顔を覚えたくらい。
クラスの人に会わなくてすむし、好きな本が見つかるし…一石二鳥。
寒くて動きにくくなってる足で、やっと書店についた。
寒かったせいか妙に着くまでがいつもより長かった気がした。
なれた足取りで中に入る。
じん
えーっと…あ、ここか
探してる本が売ってそうなコーナーに足を運び並んでる本の題名を隅から隅まで見る。
…俺が探してる本はなかった。
珍しく欲しい本が見つからず、あんまりいい気分ではない所にその気分をもっと下げる連中がやってきた。
パリピ1
うっわ、こんな所に書店あったの知らなかったんだけどww
パリピ2
なんか全体的に汚い…←
入ってきて第一声がそれか。こういう人達を見ると自分が常識のある人間で良かったと思う。
他人にあんな姿を見られるなんて、嫌すぎる。

まあ他人の目なんてどうでもいいけど。
パリピにはあーいう奴しかいないのかな。

しかし、次の言葉を聞くと、そんな考えなんて一気に消えた。
テオ
馬鹿、ここは俺の行きつけの店なの!
そんな常識ないこと言うなー?
聞き覚えのある声だった。少し気になり入口付近に目をやると、そこにはクラスでいつもうるさい程騒いでるグループの姿があった。

ここは行きつけの店、って言った人はたしか…
名前が思い出せない。クラスで目立ってるせいか顔はしっかり覚えてるんだけどな〜
まあいいや。
気付かれたりしたらめんどくさいし、欲しい本もなかったしさっさとここから出よう。
あのグループと鉢合わせしないようにわざと遠回りして出口に向かう。

それが間違った判断だったのか、そのグループと運悪く鉢合わせしてしまった。
パリピ1
あれ…?
目が合った。
無視するのもあれだし、軽く会釈して早足で外に出た。
あのグループに捕まったらめんどくさそうだったし、速やかに書店からでれてよかった。

一安心し思わずため息がこぼれる。
じん
よし、帰ろうかな
ひとり小さく呟き、再び冷たい風に当たりながら家に向かった。
テオ
あ、いたいた!おーーい!!
後から声が聞こえ、俺に向けて言ってるのか分からなかったけど無意識に振り向く。

…え?

俺の目に入ったのは、さっきのグループの中にいた人が手を振りながら小走りで俺に近づいてくる。
テオ
ちょ、歩くの早くねェ…?
じん
どうしたの?
息切れる相手を見つめながら淡々と告げる。
今日は帰って読みかけの本読みたいのに。

用事があるならさっさとして欲しかった。まあ用事以外で俺に話しかける理由がないけど。
テオ
いや、さっき本屋にいてさ…藤枝ってあそこで本買ってたんだね?
じん
あ、そうだけど…それがどうかした?
テオ
俺よくあそこ行っててさ?
あそこあんまり人目につかないし、クラスメイトが知ってるなんて思ってなかったから。
じん
俺も、知ってる人がいるなんて思わなかったよ。
特に君みたいな人なんて、尚更驚きだよ?
テオ
え、そー?やっぱり俺って小説読まないイメージあんのか!!
ひとりで大袈裟にショックを受けたような素振りを見せるクラスメイト。

表情がコロコロ変わって、面白い。
テオ
…あ、今俺のこと面白いって思ったでしょ!?
じん
いや別に…うん、ちょっとだけ思った。
嘘をつく理由がないと思い、言いかけた言葉を遮り素直に認めた。
するとクラスメイトは気持ち悪くニヤニヤと笑いながら俺を見つめる。
じん
なに?
テオ
いや、藤枝も面白がることあるんだな〜って思ってさ?
じん
なんだそれ、俺はロボットじゃないよ
テオ
ナイスツッコミだね!!
じん
言い直さないで、恥ずかしいわ
さっきのニヤニヤした表情から、楽しそうな表情に変わった。
本当にこの人は表情がコロコロ変わる。
逆にこの人こそロボットみたいだな〜なんて思った。
じん
…じゃあ、もういいかな?
テオ
あ、うん!引き止めてごめん!
じゃーな!
笑顔でそう俺に言うと、再び手を振りながら小走りで書店に戻って行った。
じん
あ、名前聞くの忘れた
なぜか名前を知りたがってる俺がいた。
まあ、どうせあの人とはもう関わることはないと思う。




だって、
あの人と俺は違う世界の人間だから。
不覚にも、それが少し寂しかった。
それがなぜかはよく分からなかったけど。

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