夜。
藤枝が初めてうちに来た。
俺の親は結構金持ちだったらしくて、この広い家だけを残していなくなった。
だから無駄にでかい家に親戚と俺で住んでる。
そう言ってさっきまでしかめてた顔を無理矢理真顔に戻し言う藤枝。
わかりやすいな〜、可愛い。
藤枝は楽しそうに笑った。
最近は前と比べたらすごい笑ってくれるようになって、実はめっちゃ嬉しい。
少し俺のこと認めてくれたのかな?なんて思ったりして…ひとり喜んでた。
そういえば、今日藤枝の家で俺に一つ言いたいことがあるって言われた。
でも聞かなかった。なんか聞きたくなかった。
何を言われるかがわからなくて、怖かった。
だからトイレに逃げ込んじゃった。
弱いな、俺。
そしたら、藤枝は安心した笑顔を見せた。
むり。可愛すぎる。
このままだと理性が保たないと思い、俺は慌てて外に出た。
外でひとり呟いた。
藤枝は俺が可愛さに悩まされてることなんて知らないんだろうな。
数分後、心が落ち着き家に戻った。
藤枝に何か察されないように、何事もなかったかのように明るくただいまを言って入ろうと思った。
扉に耳をつける。
その声は、紛れもなく藤枝のものだった。
しかも…ひとりでシているかのような声。
頑張って我慢して、あんまり声を出さないようにしてるのかわからないけど…
丸聞こえだよ。藤枝。
やっと落ち着いた気持ちが、また出てきた。
俺は迷いもなく扉を開けた。
驚きと恥ずかしさでこわれてしまいそうな藤枝の顔を見て、俺は我慢の限界だった。
ねえ藤枝、
今だけだから
俺だけのものにしてもいいよね?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。