ようやく馴染んで来たスーツに、磨き上げた革靴。
今の俺を見たら。きっと彼女は言ってくれるはずだ。
『随分、大人っぽくなったね』と。
第一志望の大学を卒業した俺は、今年で社会人2年目。
同じ大学から就職して来た後輩や、気の合う同期。
上司の人柄にも恵まれて、充実した日々を送って居る。
都心に向かう電車の混雑には、未だに慣れないけど。
改札を抜ければ、オフィスビルが立ち並んで居て。
その中でも目立つ高いビルが、俺の職場だ。
受付の女性社員に挨拶をして、エレベーターに乗り込む。
後ろで何か言っていたが、俺には関係の無い話だろう。
すれ違う顔見知りの人と、にこやかに挨拶を交わしつつ。
自分のデスクに座り、仕事を始めようとパソコンを開くと。
何か重い物が背中に乗しかかって来て。
誰なのかは振り返らなくても分かった。
同期で特に親しくして居る、高田悠佑。
作業スピードが遅めで、手伝う事も多いが。
この明るい性格で、自然と人が集まるから、少し羨ましい。
.....彼女も、そうだったから。
人に会う度、結唯と似ている所を探してしまう。
過去を引きずり過ぎだと言う事は、
痛いほど分かって居るけれど。
変われないのだから、仕方ない。
とても同い年とは思えない無邪気さを残し。
席に戻って行った悠佑を見送った後。
今度こそ仕事を進める為、キーボードに手を置いた所で。
...またしても遮られてしまった。
同性から見ても分かる顔の良さと可愛さで
先輩達から人気の後輩。
同じ大学のOBだと言う事がキッカケで
話すようになったのだが。
四六時中、笑って居て。感情が読み取れない事がほとんど。
そんな謎も多い後輩からの誘いに、正直。
聞きたくない事を聞かれる、嫌な予感がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。