私の"最後のお願い"に、蓮斗はしばらく黙った後。
困ったように笑って、そう言った。
突然言ったし、内容も内容だから無理もない。
もちろんだと頷き、謝る。
ゆるゆると首を振り。
謝る事じゃ無いと言ってくれた蓮斗を、外まで見送って。
姿が見えなくなると、私の顔から作り笑顔が消える。
あと3ヶ月しか生きられない時間を、
片想いに費やすなんてと呆れられたかもしれない。
尚更、彼には好きな人がいるのだから。
そう心の中で決めて、返事を待っていた私。
夜になって、彼からLINEがあった。
まさかの了承の返事に、驚きを隠せない。
好きな人がいるからと、てっきり振られる(?)
ものだと思っていたのに。
これが理由なんだとしたら、蓮斗は優し過ぎる。
そして、蓮斗の優しさに引きずられるような形で。
私の、『擬似片想い』が始まった。
ー翌朝。記念すべき片想い1日目。
新しい事を始めたくなるような空に、私の顔も綻ぶ。
『彼の格好良い所を、3つ以上見つける』事。
イマイチ頑張る方向がズレている気がしたが、
気合いを入れて、蓮斗が出てくるのを待っていると。
ぽん、と肩を叩かれ、振り向くと。
心配そうな顔をした蓮斗。
今更やめる理由も無いと言うと。
一瞬だけ頭に手が置かれ、軽く撫でられて。
その瞬間に高鳴ってしまった鼓動。
気づかなかったフリをして、笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!