きっと、彼女が死んだら。
誰よりも困るのは自分だと思う。
受験本番への緊張に押し潰されそうになっていた俺に、
私の分まで頑張ってもらわなきゃ、なんて笑って。
誰よりも重く、辛い運命を背負い、向き合いながら。
あれほど、無理はするなと言ったのに。
隠して、偽って、笑って。
倒れた彼女に付き添い、病院へと向かう。
看護師に促され、待合室で結唯の診察が終わるのを待った。
しばらくすると、病室に通されて。
案内してくれた看護師が出ていき、結唯と2人きりになる。
呼びかけても。
どんなに望んでも。
結唯がもう起きないような気がして。
このまま消えてしまうのでは無いかと、怖くなって。
今までで1番鋭く、彼女の名前を呼ぶと。
ようやく、ゆっくりと。その瞳が開かれた。
まるで、導かれたかのように。
とりあえず目を開けてくれた事に
安堵しながら声をかけると、結唯は開口一番に言った。
自分よりも、俺を心配している言葉を。
嬉しいような、そろそろ自分の心配もして欲しいような。
複雑な感情が胸の中を埋め尽くして。
不安そうに俺を見る結唯に、いつも通りに笑って見せた。
再びぼんやりとした声になって、意識を手放した彼女。
笑顔を保ったまま、おやすみ。と呟いて。
前髪をクシャリ、と掴む。
結唯が目を覚ますまで、1ヶ月もかかってしまった。
考えて見ると、恐ろしい。
偶然とは言え、今日起きてくれて良かったと心から思った。
けれど、まだまだ悩みは尽きない。
例えば、センター試験が終わっていて、
本番が明日だと言う事を伝えられていない事とか。
決めていたのに。
世界中の結唯を傷つける物や人を遠ざけて、
結唯を守ると。
行き場の無い怒りを押し込め、病室を出た。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!