ふと。頼み事があるのを思い出し、母の方を向く。
私の洋服を畳み直してくれていた母が顔を上げた。
これは、ずっと考えていた事だ。
本来は、病気の事だって話さないつもりだったのだから。
まだ何か言いたげな母を遮って、頭を下げた。
そんな私の言葉に、母の声が少しだけ厳しくなる。
確かにそうだな、と落ち込んで居ると。
母が優しく声をかけてくれた。
その言葉に、私は安堵の表情を浮かべて。
ありがとう、と微笑む。
わがままを聞いてくれて、ありがとう。
ここまで見守ってくれて、ありがとう。
そんな気持ちを一緒に込めた。
時計が7時を指す頃。
母も私の新しい洗濯物を持って、立ち上がる。
いつも通り、心配性な母を安心させてから。
最近会えて居ない父への伝言を頼んだ。
頷いてくれた母を、ベットの上から見送って。
今度こそ、誰も居なくなった部屋で。
自分の足で歩く事を試みたけれど。
ーグラッ。
地面に両足を付いて、壁から手を離した途端。
身体がよろめく。
立つ事もままならないようじゃ、
歩けない事など簡単に予想がついた。
使われなかった足の急速な衰えに絶望して。
これ以上、悪くなる事を想像しただけで怖くなる。
先生は、良くも悪くも嘘を言っていなかった。
見た目的には、少し細くなっただけにも見える足を、
優しく撫でる。
そして、看護師さんの見回りが来るのに備え。
ベットに入り直した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。