誰にでも出来る謝罪をして、医者が去った後。
黙り込む結唯と、涙を見られないよう俯く俺を見て。
彼女の両親が気を遣ってくれたのか。
結唯に声を掛けてから、病室を出て行った。
幼馴染の、ましてや好きな人でもある
結唯の両親にまで気遣わせた自己嫌悪で、
押し潰されそうになっていると。
不意に掛けられた彼女の声は優しくて。
思わず顔を上げて見つめた先の瞳は、
柔らかく細められて居た。
正直に答えかけて...慌てて否定するも、逆効果。
楽しそうに小さく肩を震わせながら笑う彼女が、
もうすぐ死んでしまうなんて。到底思えなくて。
しばらくの間、1人で笑っていた結唯は。
不意に真剣な顔をして、こう切り出した。
普段あまりシリアスな雰囲気を好まない彼女が
こんな前置きをするのは珍しい。
一言も逃してしまわないよう、ジッと耳を傾ける。
.......想定外だった。
あの結唯が、こんなに素直にお礼を言ってくれるとは。
照れ臭くて嬉しい反面、僅かな不安も生まれる。
どうして、声は明るいのに。
そんなに寂しそうに笑うのだろう。
聞きたい事は山ほどあるのに。
喉の奥につっかえて、出て来ない。
だから、見たくない事の全てに蓋をして。
結唯といつも通りの痴話喧嘩をする事で、かき消した。
.......だが、この翌日。
彼女は居なくなる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。