ニュースキャスターが、桜の開花予報を報じ始める時期。
とうとう歩く筋力も無くなり、
1日をベットで過ごすようになった私は。
ぼんやりとテレビを観ながら、ため息をついた。
喋る事や食べる事は出来る。
ただ、どこにも行けないだけだ。
私にとっては、それがとても苦しいのだけど。
______ガラッ。
いつしか私の楽しみは。
家族や幼馴染が会いに来てくれる事だけになって居て。
蓮斗は私の変化を更に鋭く見つけるようになった。
多忙な両親に変わって。
部活の後でも、絶対に顔を出してくれる。
負担になっているのは、分かっているのに。
嫌な顔ひとつせず優しく接してくれる事に、涙腺が緩んだ。
でも、もう泣かない。
蓮斗の中の記憶では、笑っていたいから。
部活に向かうと言った蓮斗に向かって、微笑む。
扉が閉まったのを確認すると、私は枕に顔を埋めた。
どうして、この言葉を飲み込んだのか。
病気に負けた事を認めたくないから。
...もしくは。
心の準備を始められていないから。
しばらく考えていると、薬の副作用が出てきたらしい。
強い眠気に襲われる。
心電図の規則正しい音をバックに、私は意識を手放した。
_____ピッ、ピッ、ピッ、ピピッ.....
『心電図の異常を確認、直ちに治療を開始して下さい』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。